ジャーナリストの堀潤さんに聞く。防災への意識と災害発生時にメディアのやるべきこととは?【関東大震災から100年】
メディアも人員は限られている中で誰が伝えるのか
昨年は豪雨による災害に見舞われた静岡にも何度か足を運ばれていました。その他にも災害に遭ったいろいろな地域に足を運び状況を伝えていますよね。
「去年は静岡には通いました。取材が追いつかないというか、大規模な災害ではないんですが、街が水に浸かってしまう、復旧まですごく地域の中で時間をかけないといけないというような災害がすごく増えているような印象があります。これまでだと東日本大震災とか、ある意味、面として広がっている災害が突発的に起きて、どうやって復旧するか、でしたが、毎シーズン毎月のようにどこかで水害や山火事といった災害が続いている。こうなるとレスキューについても他の地域に目を向けづらくなるというか、地域の防災は地域でやり切らなければいいけなくなってくる。でも地域に人がいないとか財政的に余裕がないといった理由から、地域で災害が起こったら、そこから立ち直るためにものすごく時間がかかってしまうのが現状だと思います。
実際に今年の春先に尋ねた東京の伊豆大島では首長が“復興予算を国からつけてもらったが5カ年計画とか10カ年計画で復旧する間に次の災害が来てしまうのでもう資金がない。だから地方創生どころの話ではないんです”という話をしておられた。本当にそうだなと思いました。安定したインフラや街の基盤があって初めて経済活動が成り立つし、地域活性を打ち出せる。でも今は気候変動の影響からか災害が相次いでいて、それどころではない。“国土強靭”って言っていますけど、地域の強靭化をしなければ立ち行かなくなってしまうということを実感しています」
そういった現状を知ってもらうためにはメディアの力は大きいですが、継続的に報道するのは難しいところがあります。最近ではSNSで一般の人が発信するという方法もありますが、堀さんが取材した静岡ではお年寄りしかいなくてそういう自ら発信するというのも難しいところがあったとか?
「千葉でも静岡でもそうですが、孤立した集落の中でお年寄り世帯が多い地域というのは顕著ですよね。誰が伝えるかといったときに、そのおじいちゃんやおばあちゃんが伝えるというのは困難です。では“メディアは何をやっているんだ?”とは思うんです。とはいっても各地域のメディアも人員は限られている。なので、日ごろから市民記者、市民の皆さんと発信していくということをマスメディアこそ、いつもやるような、そういう活動が必要なんじゃないかと思うんです。
現場は全然違うんですが、シリアの内戦が深刻化していく中で、なかなかシリア国内にとどまれなかったBBCとかAP通信といった諸外国のメディアの人たちが、シリア国内にいるジャーナリズムに関心のある人たちをトレーニングして市民記者を育成したんです。そのうちの一人の方と僕も連絡が取れて、シリア国内の状況とかをいつも教えてもらってるんです。今年だったらシリア・トルコ大地震が発生した。日本の熊本地震よりもはるかに大きい揺れだった。トルコの状況は伝わってきたが、シリア北部の状況は伝わってこなかった。でもそのトレーニングを受けた市民記者の人が自分たちで発信をしていたので、仲介者を通じてその方から連絡をいただいて、映像とか情報をもらえた。だから有事に備えて、マスメディアが持っている技術やインフラというものをどんどん市民に開放して、一緒になって発信していくという、そういう関係を今こそ築く時じゃないかと思うんです。
視聴者ボックスみたいな感じで“何かあったら送ってください”というものはあるけれど、それではなくて一緒になって発信していくためのトレーニング。そういうことをやるべきではないかと思っています。僕はNHKを辞めてから個人的にいろいろなメディアの方と一緒になって、約10年間、今も続けているんですが『毎日ビデオジャーナリズムラボ』というものをやっています。ここでは毎月30~40人くらいの受講生の方をオンラインでトレーニングしているんですが、やっぱりいざとなった時にすごく頼りになる。“うちの地域でこんなことが起きてます”とか“報道されてないんですがこういう映像を撮りました”とか“当事者になったので私はこのことを伝えたいです”とか。こういったことがこれからのマスメディアに期待される機能なんじゃないですかね」