【知っておきたい「事業と消費税」】インボイスを機にフリーランスライターから法人化
「インボイスを機にフリーランスライターから法人化」(きいてかく合同会社・代表 いからしひろき さん)
―フリーランスのライターとして長年活動し、インボイス制度を機に法人化を意識。今年、取材や執筆を請け負う「きいてかく合同会社」を立ち上げた。
「編集プロダクションというより、多彩なジャンルに精通するライターのマネジメント事務所というイメージです。年齢的な節目もあったんですが、長らく出版不況といわれる中で原稿単価も上がらず、僕自身ずっとライター業に閉塞感を抱いていました。個人で依頼を受けてその対価としての報酬をもらうという形だけでは限界がある。さらに今や生成AIでもそれなりの文章が書けるなか、編集プロダクションも減り出版社がライターを育成する余裕もなく、必要な経験を積むこともできず使い捨てられるだけのライターが増えている。そんな現状に対し自分が少しでも役に立てることがあるとしたら、それは個人のままではなく会社としてやっていくことだと思ったんです」
―法人化して感じた変化は。
「会社を登記して以来、個人に業務発注をしない方針の大手企業との取引が始まるなど、ビジネスチャンスの幅は格段に広がったと感じています。その分、法人としての社会的責任も実感しています。質の良いものを納品し、次につながる仕事にしたいという意識がより強くなりました。自分でも面白いなと思うのが、個人事業主のときは納品した記事にあれこれ言われると身の程知らずにもアーティスト気質みたいな感情が出てしまっていたんですが、法人として仕事を受けるようになってからは全くそのようなことがなくなりましたね(笑)。こういう意識の積み重ねで事業の質も上がっていくのかなと思いました」
―インボイス制度を機に経営者として税知識の重要性も強く感じたという。そのうえでインボイス制度に登録し課税事業者となることを選択。登録事業者として受注する一方、免税事業者の契約ライターにも以前通り発注を続ける。
「税理士さんに相談したところ、僕の場合は簡易課税を選択し3年間の2割特例を活用すれば、取引するライターさんが免税事業者でもさして影響はないということが分かりました。別の税理士さんからは“消費税の2割をライターさんに負担してもらえば”というアドバイスも頂いたのですが、もともと僕が起業した理由としてライターの社会的地位と収入を上げたいという思いがあるので、とりあえず前者の方法を選択することにしました。とはいえこの先、身銭を切ってまで…というのはビジネスとして違うかなとも思いますので、ライターたちとも相談しながら、特例の期限までには結論を出したいと思っています。
目指すのは、消費税はもちろんのこと、どれだけコストが掛かっているかを買い手に正しく主張できるビジネスリテラシーの高い売り手になること。とくにライターの仕事は、取材にかかった時間や下作業など見えにくいコストもたくさんあるのです。それを踏まえた正当な報酬をきちんと請求できるようになることが、より質の高い仕事につながると考えます。もちろん消費税もそう。インボイス制度はいろいろ課題があると思いますが、僕自身はこれを機に、会計に対する意識を高めたいと、気持ちを切り替えました。それが自分自身や会社の成長につながればいいなと思っています」
「インボイス制度」は正式には「適格請求書等保存方式」といいます。「インボイス(適格請求書)」とは売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるもので、インボイスを発行するためには「適格請求書発行事業者」に登録する必要があります。買手は仕入税額控除の適用を受けるために、原則として、取引相手(売手)である登録事業者から交付を受けたインボイスの保存等が必要となります。
日本の消費税は平成元年に3%から始まり、平成9年に5%、平成26年に8%、令和元年に10%と段階的に引き上げられてきました。問題は、令和元年時に飲食料品や新聞については軽減税率適用で8%のままとしたことです。インボイス制度導入の背景には、消費税の税率が複数存在することによる計算上の混乱があり、それを解消するために、請求書に「8パーセントはいくら、10パーセントはいくら」と税率を明記することで、税金の計算をより正確かつスムーズに行うようにするのが狙いです。しかし、実際の運用においては課題もあります。インボイス制度に登録している業者と、していない業者がいるため、計算が逆に複雑化する可能性があります。
一方で、納税の「公平性」を目指して導入された側面もあります。以前は売上が1000万円以下の事業者は消費税を納める必要がありませんでしたが、インボイス制度を通じて、より多くの事業者が税金を負担する方向に変わる可能性があります。
制度の運用や理解には時間がかかるかもしれませんが、その目的と機能をしっかりと理解することが、より効率的で公平な税金の管理につながると考えられます。