監督が「実話を基に書いた」映画『エス』。「大学時代の演劇仲間」の描写やその頃の記憶をアウトプットする技術の鮮やかさに注目【黒田勇樹のハイパーメディア鑑賞記】
こんにちは、黒田勇樹です。
今年もあと4日となりました。舞台、映像をはじめ、今年もいろいろやらせていただきました。皆さん、ありがとうございました。
このコラムも今年最後となります。来年は1月3日はお休みをいただきまして、10日から再開いたします。
皆さん、良いお年を。
では今週も始めましょう。
本当に、洋画も邦画も大作揃いになりがちな、年末年始の終わりかけに、背景には社会問題も大きく関わっているものの、小規模な世界観の作品を、脂っこいものに飽き始めた頃に上映して頂けるのはとてもありがたい。注目したいのがまず「大学時代の演劇仲間」の描写。
会話の最中にそこそこ本気の練習もどきが始まったり「どうしてやらなきゃいけないのかがわからないことを、皆で一生懸命やる」
「どうしてやるのか」?と、聞かれたら「僕たちにだってわからないですよ!!」と答えるしかないようなアホな儀式をしたり…
カラオケ!居酒屋!家飲み!ファミレス!飲み物のチョイス!空気!
バイト先がコールセンター!(でも、マジでこう)
字にしてしまうと、まあこんな空気なんですが、この話の本質は、嘆願書を書くため、久しぶりに集まった10年振りの同級生たち。言い出しっぺは同級生でこの作品に懸けていた売れない俳優。作品が上演中止になりそうで、皆を集めたという。
同窓生で映画監督の“S”、罪状は不正アクセス。女性のメールアドレスを盗み見てなりすましメールを送ってたことを、マスコミに暴かれてしまった。
「なんか聞いたことがあるな?」と思ったら、この映画は監督が「実話を基に書いた」んだそう。
友情や衝突、愛情や決別、こんなにも色鮮やかに描けるのは、その頃の記憶を鮮明に心に刻んでいるからなんでしょうね。それをアウトプットする技術も、また鮮やか。
撮り方は、とてもヨーロッパっぽいアプローチで演劇“的”なんですが「いや、この監督自身には、本当にこの世界がこう見えていて、そういうものが血肉に染み付いているんだよ!」という、誰だかわからない目線で感動をしてしまいました。
「La La Land」の監督もきっと本当にデート中に歌ったり空飛んだりしてたんじゃないかな?
他者の、美しい記憶を覗きみることができる。いやあ、映画って本当に良いですねぇ。本作が“美しい記憶”なのかは、監督にお会いして聞いてみたいところですが笑。
皆様も是非、ご体感下さい!
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1982年、東京都生まれ。幼少時より俳優として舞台やドラマ、映画、CMなどで活躍。
主な出演ドラマ作品に『人間・失格 たとえば僕が死んだら』『セカンド・チャンス』(ともにTBS)、『ひとつ屋根の下2』(フジテレビ)など。山田洋次監督映画『学校III』にて日本アカデミー賞新人男優賞やキネマ旬報新人男優賞などを受賞。2010年5月をもって俳優業を引退し、「ハイパーメディアフリーター」と名乗り、ネットを中心に活動を始めるが2014年に「俳優復帰」を宣言し、小劇場を中心に精力的に活動を再開。
2016年に監督映画「恐怖!セミ男」がゆうばり国際ファンタスティック映画祭にて上映。
現在は、映画やドラマ監督、舞台の脚本演出など幅広く活動中。
公式サイト:黒田運送(株)
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