山田幸代×北川愛莉対談「社会人経験がスポーツ選手としての生き方にポジティブな影響を与える」

多くの共通点を持つ“先輩”と“後輩”としてトークが弾む2人

大切なのはスピーディーで密なコミュニケーション

北川「山田さんは競技者としてだけでなく、コーチング、ラクロスに関する発信活動などにも携わってらっしゃいますよね。特に人を指導する上で、どのようなことを大切にしていますか?」

山田「フィードバックや会話など、コミュニケーションを密に取ることを大切にしています。例えば、子どもたちがラクロスに触れる機会の提供として、年に1度学生を100名ほど集めて大きな国際マッチを主催しているのですが、チームごとにメンターとなる社会人を入れ、小さいグループの中で一人一人とコミュニケーションを取る体制づくりを心がけています。選手個人に対して速くて的確なフィードバックを返してあげたいからです」

北川「そう思うきっかけがあったのでしょうか?」

山田「オーストラリア生活がきっかけです。オーストラリアの選手は、私はこう考えてこうしたのですがどうでしたか? と自分の行動をきちんと言語化して伝え、具体的なフィードバックをもらう努力をしていました。しかし、日本ではそもそもフィードバックをもらおうとする人が少ないし、もらいに行ったとしても今日の私はどうでしたか? と漠然と質問するくらいです。さらに、指導する側も曖昧な返事をする場合が多いし、レスポンスが遅い傾向にあります。指導する側もされる側もオーストラリアと日本で考え方ややり方が根本的に異なっていたのです。でも、フィードバックの毎日の蓄積量の違いは個人の成長、ひいてはチームの発展に大きく影響しますから、これはなんとか是正しないといけないと考えたのです」

北川「私もコーチや先輩からの指導や指摘を待ってしまうタイプなので、その言葉は胸に刺さります。特に大宮アルディージャVENTUSの選手はベテランが多く、話しかけてくれる方が多いので、そこに甘えてしまってはいけませんよね。職場でも同じで、コミュニケーションを取ってくれて自然にアドバイスしてくれる方が多いので、それに甘えず、自ら積極的に質問しにいくようにしたいと思います」

北川愛莉(きたがわ えり)…2001年生まれ。滋賀県出身。大宮アルディージャVENTUS所属。東洋大学体育会サッカー部・女子部では、2023年の全日本大学女子サッカー選手権決勝大会で決勝点を決めMVPに。東洋大は大会無失点で初優勝を飾った。現在は大宮アルディージャVENTUSでFWとして活躍するとともに株式会社ミライト・ワン社員として働いている。

社会人経験は将来の夢にポジティブに作用する

北川「私は仕事とサッカーの合間にYouTubeを見たり料理をしたりしてリラックスしています。料理では栄養バランスも意識しながら、食べたいものを楽しんで作っています。得意料理はハンバーグなどの挽肉料理です。山田さんはどのように気分転換されていますか?」

山田「私は食器洗いですね」

北川「食器洗いですか!?」

山田「ええ。英語を全くできない状態でオーストラリアに行ったので、英語で話しかけられることがすごくストレスで……チームメイトとの会話から逃げるために、ご飯を食べた後に全員分の食器を持っていって洗うことで一人になっていたんです。それが習慣化してしまって、今ではリラックスタイムの一つですね。お皿洗いをしたいから料理をしている部分もありますよ」

北川「私も世界で活躍できる選手になりたいので、言語の勉強をしなくてはと思っているのですが、なかなか……。まずは行く国を決めないと学ぶ言語も決められないですよね。いつか海外に行けるように頑張ります!」

山田「チャンスがあったらぜひ行ってください。視野が広がりますし、学びの深さが違いますよ。そして、会社の方や周囲の方からのサポートに心の底から感謝すると思います。サッカーを通して何を成し遂げたいかを考えた時に、恩返ししたい場所があるというのは自分自身をポジティブにしてくます。目標にしている選手はいますか?」

北川「具体的にこの人というのはありませんが、常に周りを見ながら、チームにいるだけでその場の雰囲気が明るくなるような選手に憧れます。会社では、私がいると職場が元気になると言ってもらえているので、その目標に少しずつ近づけているようでうれしいです」

山田「その場を明るくできる人がいるのといないのではチームのあり方に大きく影響しますからね。仕事とサッカーの両立は大変だと思いますが、怪我をしないように頑張ってくださいね」

北川「ありがとうございます。私も山田さんの今後のますますのご活躍を楽しみにしております」

(取材・文:巖 朋江)