イカ、芽ネギ、そうめん。好きな食べ物から世界平和ってのは難しんだな、と考える。〈徳井健太の菩薩目線 第203回〉
“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第203回目は、人の好みについて、独自の梵鐘を鳴らす――。
ABEMAの『WINTICKET ミッドナイト競輪』に出演した際、『あっぱれさんま大先生』でおなじみの山崎裕太さんと共演した。
『ミッドナイト競輪』はその名の通り、競輪を紹介する番組でもあるので、選手の好きな食べ物や嫌いな食べ物を紹介することが珍しくない。といっても、「選手名鑑」よろしく、一斉にアンケートを取っているだろうから、中には答えに窮して、とりあえず思いついたものをあげている選手も多いと思う。実際、好きな食べ物は「焼肉」が目立つし、嫌いな食べ物も「トマト」という具合にベタなものが少なくない。
好きな食べ物を紹介する流れの中で、僕は山崎さんに「好きな食べ物って何ですか?」と聞いてみた。
「好きな食べ物も嫌いな食べ物もないんですよ」
そんなバカな。感情が死んでいない限り、少なからず得手不得手の食べ物があるはずだ。虚を突かれた僕は、食い下がるように「ホントに何にもないんですか?」と念を押した。だけど、山崎さんは「ない」という。
「だったら、もしもですよ。明日、地球が滅びますってなったときはどうですか? 最後に食べるものは、好きなものでありたいじゃないですか」
「しいて言えば、寿司は好きかな?」
「おぉ! 寿司、いいじゃないですか! 何のネタです?」
「うーん、イカかな」
「イカッ!? いや、僕も好きですよ、イカ。でも、ホントにイカでいいんですか? 今まさに隕石が降ってきて、もう死ぬ間際なんですよ。最後に食べるのがイカの握りでいいんですか!?」
「うん」
千鳥さんのネタで、「イカ二貫」のくだりがある。有名なネタだから、今更説明するまでもないけど、「あえて」の「イカ」だからこそ、そのキャップに僕たちは笑ってしまう。
でも、山崎さんとの会話の中でふと気がついた。もしかしたら山崎さんのように、隕石が地球に接近する最後の瞬間にイカを注文する人は、千鳥さんの「イカ二貫」にクスリともしないんじゃないのかって。だって、イカが好きな人にとっては、イカがオチになっていないんだから。
食べ物の話は続き、地球最後の日に食べたい最後の寿司ネタが「イカ」であることに釈然としなかった僕は、その場にいた他の子にも振ってみた。すると、その子は「私は芽ネギです」と返してきた。
「この流れだからこそのボケだよね?」
「いえ、ボケでもなんでもなく、私は芽ネギが一番好きなんです」
「……他に好きなものは何?」
「ズッキーニです」
目が覚めた。お笑いって、全員を笑わすことはできないんだ。芽ネギとズッキーニなんて、ボケサイドがチョイスする絶妙な食べ物じゃない。でも、世の中には真剣な眼差しで、「地球最後の日に芽ネギの握りを選ぶ」と答える人がいる。
何をチョイスすればボケとして成立するか――ということを僕たちは考える。
「お誕生日おめでとう。プレゼントを用意したの。はい、芽ネギ」
「め、芽ねぎィィ~~??」
漫才にしても、コントにしても、漫談にしても、ギャップ(裏切り)を考えながらネタを作っていくけれど、あの子にとって芽ネギというチョイスは、「わー! うれしー!」になる。どうしてみんなが芽ネギで笑っているのか、不思議で仕方ないかもしれない。「あえて」のワードは、全員には刺さらない。期待しちゃいけない。世界平和は訪れない。
そりゃそうかもしれない。僕が、地球最後の日に食べるたいものは「そうめん」だ。好きなんだからしょーがない。ズズズーッと一気にすすって、滅亡を迎える。だから、「そうめん」を裏切りのボケとして持ってこられても、僕はビクともしない。でも、その横では誰かが笑っているんだろうな。これだからお笑いって難しい。
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