東京はシリコンバレーになれるのか？5月本格オープンの大規模スタートアップ支援拠点TIBが目指すもの

―東京都ではさまざまな形で創業支援を行っていますが、新たにスタートアップ支援施設であるTIBを設立した背景を教えてください。

「2022年11月、東京都は“挑戦者が生まれ、世界から集まり、挑戦者を応援する東京へ”というスローガンを掲げ、新たなスタートアップ戦略〈Global Innovation with STARTUPS〉を発表しました。TIBはその戦略を実現するために設立された拠点となります。ご存じの方も多いですが、アメリカやイギリス、中国など、スタートアップの数はもちろん、ユニコーンと呼ばれる評価額10億ドル以上のスタートアップ企業の数も、日本より圧倒的に多い。実際に東京都でもフランスのStation FやシンガポールのBLOCK71といった、世界でも有数のスタートアップエコシステムを視察し交流も行っていますが、やはりスタートアップやユニコーンの数から、資金調達額の規模まで、日本とは圧倒的な差があるのを感じます」

―Startup Genomeによる「グローバルスタートアップ・エコシステムランキング2023」では、1位にシリコンバレー、2位にロンドン、ニューヨーク、7位に北京、12位にソウルが入っており、日本（東京）は15位。海外のスタートアップエコシステムの強さとは。

「都としてもその理由を分析したところ、民間や行政が力を合わせ活発なスタートアップエコシステムを形成している国が多いことがあげられました。実は、東京にはスタートアップエコシステムが数多く存在します。しかし多くの場合で、スタートアップと支援者とのつながりがそのエコシステムの中だけで完結してしまう傾向があるのです。例えば、一つのエリアのスタートアップエコシステムにいると、その中にいるスタートアップや支援者としか出会えない。それだと、支援の規模も幅も狭まってしまいます。それなら、それぞれ自立して活動している無数のエコシステムがつながる場を作り、東京に大きなスタートアップエコシステムを創って世界を目指そう、と。そのための“結節点”となるのがTIBなのです。また、東京都の政策ではありますが、都内だけのエコシステムを対象とするのではなく、日本全体の結節点となりたいとも考えています。」

―つながる範囲が広がれば、グローバルに羽ばたくイノベーションが生まれる可能性も高まる。

「それだけではなく、TIBは海外から日本に興味を持ってくれる投資家らのための“玄関口”にもなりたいと考えています。というのも現在、海外の投資家が日本や東京のスタートアップに興味を持っても、東京のどこに行けばいいのか分かりにくいと言われることが多いんです。東京という街の複雑さもあると思いますが、やはり別個のスタートアップエコシステムがたくさんあることが、より分かりにくくしているのだと思われます。シリコンバレーに行けばこれぞというスタートアップに出会えるという感覚とは違って、東京ってよく分からない、となってしまうそうなんですね。なので今後、海外から来た投資家たちにとって、まずTIBに来て東京のスタートアップの情報を仕入れようという場所になっていけばいいと思っています」

―東京都がTIBを通じて達成しようとしている目標とは。

「東京都では〈Global Innovation with STARTUPS〉に基づき〈未来を切り拓く10×10×10のイノベーションビジョン〉という目標を掲げています。これは5年以内にユニコーン数10倍、起業数10倍、行政とスタートアップの協働プロジェクト10倍を目指すというものです。スタートアップの数を10倍にして“すそ野”広げ、ユニコーンの数を10倍にして“高さ”を出し、官民の協働で幅を広げる。これをTIBが東京のスタートアップのエコシステムの結節点となり、日本全国さらには海外ともつながることで達成していこう、と。現状、かなり野心的な目標だということは分かっています。ユニコーンを生むためには莫大な資金調達や支援が必要ですが、行政が1社に巨額の投資をするわけにはいかない。よって、それを可能とするスタートアップエコシステムを形成する仕掛けを作っていきたい、というわけです。こういった施設は運営を丸ごと外部委託することも多いですが、TIBは東京都の職員が日々現場で関係者と議論しながら運営に携わっています。グローバルなイノベーション創出を目指すべく、今後もさまざまな仕掛けを作っていきたいと考えています」