バスケ男子日本の歴史的快挙をドキュメンタリー映画化した大西監督に聞く「18点差ビハインド、どれだけの人が彼らの勝利を信じていたか」

「もうすっかりAKATSUKI JAPANのファン」と大西監督

選手12人とホーバス監督、日本バスケのレジェンドたちが語ったこと

 捲土重来の逆転劇を熱い音楽とともに追体験する興奮に加え、大西監督による代表選手12人やホーバス監督への独占インタビューで語られる言葉が胸に迫る。

「ただ試合を見てほしいなら、あの実況映像をそのまま流せば一番なんですけど映画にしないといけないので(笑)。会場にいるかのように没入しながらあの大逆転劇を追体験してもらえると同時に、それをなしえた12人とコーチたちの思いや、苦難の時代を乗り越えて48年ぶりに自力で五輪行きを決めた日本男子バスケの軌跡にも思いをはせる映画にしたかったんです。今回、別で撮られた選手たちの密着映像も使っているんですが、コートの外での選手たちって、すごくにこやかなんですよね。プレッシャーがあっても、それを見せていない。だからこそ僕が新たに取材するなら、あの“死の組”の中で感じていたことや連綿と受け継がれてきた日本代表の悲願といった、彼らがずっと抱えてきた思いを直接引き出そうと考えました。彼らも、あの戦いが映画になることをとても前向きにとらえていて。遠征を控えていてインタビュー時間が15分しかとれないというようなときもあったんですけど、全員が思いの丈を誠実に語ってくれました。取材後、広報の方に“あの話は初めて聞きました”とか“あんなに詳細に、あの話を語るのを初めて見ました”と言われることも度々あったので、バスケファンも知らない一面を引き出すことができたんじゃないかな、と思ってます」

 富樫勇樹選手が語る勝てない時代の悔しさ。ジョシュ・ホーキンソン選手が語るフィンランド代表マルカネン選手に対する意識や、フリースローへの知られざるプレッシャー。さらにはチームだからこそ知る選手同士の支え合いのエピソード…。

「一般的にスポーツの映像作品だと得点した選手にフォーカスが当たりがちなんですけど、自分が裏方の人間だからか(笑)僕は、スタッツでは見えない部分への貢献も伝えたくて。得点に絡んでないとか出場機会が少なかった選手をどう入れ込むかも、すごく考えました。インタビューでは12人の役割の違いを意識しながら話を聞いていたんですが、結果的に12人それぞれの人柄も見えるインタビューになったんじゃないかな、と思っています」

 その中で繰り返し出てくる言葉「BELIEVE=ビリーブ」は本作のタイトルに据えられた。

「『BELIEVE』というメインタイトルは、わりとすぐに決まりました。やっぱりトム・ホーバス監督のワードのインパクトが大きかったですし、僕自身も選手や監督たちに話を聞くなかで、そのワードにみんなの思いが凝縮されているのを感じたので。フィンランド戦18点ビハインドという状況で、どれだけの人が彼らの勝利を信じていたか。映画のインタビューでも出てきますが、あのレジェンドの佐古賢一さんですら、これは難しいかもと思ったと言っていましたから(笑)。でもAKATSUKIは全員、“信じてた”と言うんです。信じていた理由は人それぞれですけど、何よりトムさんが選手を信じ続けていて、だから選手もトムさんがそう言うなら自分たちにはできる、もっと頑張れると信じられる。皆がそう言うんです。トムさんも“わがままな選手が1人もいない”と言う最高のチームです。パリ五輪ではまたメンバーを変えながら“BELIEVE”をつないでいくと思いますが今回、パリ行きを決めたこの12人の声をこうして残すことができたのは本当にありがたいことだと思っています」

 その“BELIEVE”は苦難の時代を歩んだ先人たちから受け継がれたものでもある。映画では“ミスターバスケットボール”佐古賢一や、日本人初のNBAプレイヤー田臥勇太が自分たちの時代を振り返りつつ、この歴史的快挙への思いを語っている。

「映画では使っていないんですが、あの大会で最年長だった比江島慎選手は、リオ五輪世界最終予選のときの最年長だった田臥勇太さんの背中を見て学んだとおっしゃっていました。あのNBAプレイヤーの田臥さんが全力でリバウンドやルーズボールを取りに行って若手がやりやすい雰囲気を作ってくれた、と。それを今回、比江島さんがやっているんですよね。富樫(勇樹)選手や渡邊(雄太)選手、馬場(雄大)選手といった、勝てない時代を身をもって知っている選手たちはもちろん、ワールドカップ初出場の選手たちにもそれが伝わっている。12人が1つの方向を向いていたからこの結果につながった。日本代表の思いは、ずっと受け継がれてきたんですよね。

 映画の冒頭で使った“挑むことすらできなかった”という言葉は、インタビューで佐古さんがおっしゃっていた言葉です。自分たちは日本バスケの時間を止めないようにもがいていた時代。動かすのはいつの時代になるか分からないけど、もがき続ければその先につながるはず、と。その時間を一気に進めたのが今回のチームだった。時代が変わり選手が変わっても、きっとこの“BELIEVE”はこれからも続いていくんだと思います。そういう意味でも転換点となった大会でしたし、それを映画としてまとめることができたのは本当に光栄です。この12人の戦いを描いた作品ですが、日本バスケを一つの人格とすれば、苦難の時代を乗り越えて大逆転劇での五輪行き獲得という、日本バスケの大きなヒストリーも感じてもらえる作品になったと思います。“あきらめなかった男たち”というサブタイトルには、その思いを込めています」

 最後に、パリ五輪へ向けてAKATSUKI JAPANに期待することは?

「一ファンとしては、どういう結果になろうとも信じ続けるだけです! 彼らができる限りの努力を積み重ねてパリに臨むのはもう分かっているので。あまり余計にあおったりせずに信じて応援し続けたいです。僕のような人は多いと思いますが、もうすっかりAKATSUKI JAPANのファン。もう本当に、みんな大好きです!(笑)」
(TOKYO HEADLINE・秋吉布由子)

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