NYは日本食人気でラーメン3500円、街には猫サイズの“ネズミ”?「今の日本人にはハードルが高い街」で女性画家が暮らし続ける理由
今、世界中から訪れる観光客が“安くてお得な日本”を満喫している一方、日本人にとって海外旅行や留学、移住のハードルが上がっている。それでも世界に挑戦の場を求める日本人は少なくない。ニューヨーク在住8年目の日本人女性画家Kohさんに、現地の最新事情と「今の日本人にはハードルが高い」街で挑戦し続ける理由を聞いてみた。
【インバウンド加熱の日本。一方、NYでの“日本”は…】
「今すごいですよね、私の周りの友人もみんな日本に旅行に行ってます」と、ニューヨークでも感じられる日本旅行人気を語ってくれたのは、同地で画家として活動しているKohさん。こどものころから絵を描くことが大好きだった彼女は、2011年の東日本大震災で死を意識したことがきっかけとなりアートの道へ。2016年にニューヨークに移住し、パーソンズ美術大学で美術学士号を取得。現在はプロの画家として活動している。
「中には、週末だけ日本に旅行に行くという人もいますよ。私が知る限り、アジア系の人にはもともと日本は人気でしたけど、最近は白人系の人もかなり増えている印象です。今、日本円が1ドル157円(取材時)とかなり安いので、とてもお得な気分になれますから(笑)。日本は安くてもホテルをはじめどこもキレイだし、ご飯はおいしいし。日本の飛行機に乗るのもステイタスみたいで、マイルを上手く使ってANAとかJALのビジネスクラスやファーストクラスに乗って日本の有名店が監修した機内食をSNSにアップする、という人がけっこういます」
―日本でも“インバウンド価格”が話題を呼んでいますが現在、NYの物価は?
「同じ大学の先輩がオシャレなおにぎり店をオープンしたんですけど、1個5ドル前後。おにぎり1つで700円、800円です。もちろん人気です。以前は安かった日本食居酒屋でもコロナ後にすごい値上がりしていて、16ドルくらいだったラーメンや丼が22ドルとかです。さらに今の円安で、ラーメン1杯で3500円弱なんて普通です。しかも食材も高くて、マンハッタンではキャベツ1玉で1000円超えたりもします。スーパーで野菜を4つ5つ買ったらすぐ60ドル、1万円くらいいってしまう。食材を買ってもどうせ高いし使い切れないので、一人暮らしだと、みんなよくスーパーのデリやデリバリー使ってますね。それでもサラダだけ頼んでチップ込みで20ドル、3100円以上なんですけど(笑)」
―物価高以外の住環境は?
「ご存じの通り治安は悪いです。私自身は出歩く場所も限られているので嫌な思いをしたことはないんですけど、人の話やニュースを見ていると、治安の悪さを感じますね。最近よく聞くのが、女性が無差別に殴られる事件。地下鉄とか路上で無差別で女性を殴る人がいる、と領事館からも注意喚起がありました。男性はターゲットにされないから弱い人を狙ってるんでしょうね。被害に遭った人がよく殴られた後の顔をSNSにアップしたりしていますよ。あと最近だと、ガザ地区の問題で大学生がけっこう激しいデモをしていて逮捕者が出たりしています」
ーニューヨークの地下鉄の治安の悪さをよく聞きますが…。
「私は、学校を卒業してからは基本的に家で作品を制作していることもあって、地下鉄はほぼ使わないんです。友人の中には夜に飲みに行って一人で地下鉄で帰ってくる女性とかも普通にいますけど私は一人では大抵、徒歩か友達とUberです。バスは割と安全ですね。まあどこの国でも、絶対に安全なことはないので気をつけるに越したことはないですから。
ただ、ニューヨークの地下鉄はゴキブリとかネズミもすごくて。しかも今“巨大なネズミ”みたいな見た目の生き物が出没しているんですよ。オポッサムという生き物(※有袋類に分類される)を以前ブルックリンでネズミ退治のために放したらしいんですけど、それがどんどん繁殖しちゃって、マンハッタンまで広がってるんです。今じゃ、ネズミより全然大きい“猫サイズのネズミ”みたいな気味の悪いやつが普通に5番街をウロウロしているので、みんな動揺しています(笑)」
ー今、日本人が暮らすにはなかなかハードルが高そうなNY。かつては海外における日本の存在感を象徴するように、タイムズスクエアを日本企業の広告が席巻した時代もあったけれど…。
「今もタイムズスクエアに日本企業の広告はありますよ、昔ほどじゃないですけど。今も(取材時)大谷翔平選手の広告が目立っています(笑)。ただ近年はBTSとかの、韓国系のほうが目を引く印象ですかね。広告もそうですけど、円安の影響もあってか、以前と比べると日本人の観光客を見かけることもかなり少なくなりました。私の友人たちもGWなどの時期には日本から良く遊びに来てくれていたんですけど、航空機代だけでもすごい高いということで、今年はビジネスで出張者以外はまったく来ませんでした。留学生も少なくなっている感じがします。私の大学でも、私が卒業する時点で日本人の学部生はほぼいませんでしたし、以前なら夏休みの間だけでも語学学校に短期留学する人がよくいましたけど、最近はそういう人の話を聞かなくなりましたね。物も家賃も高いし、留学にしろ旅行にしろ、日本から遊びに来たり挑戦しに来たりする場所としてはハードルの高い場所になっているのかもしれません。
一方で、駐在の方とか、こっちでドルでの収入がある方にとっては円安の恩恵を大きく受けてる状況だと思います。手当が厚い一流企業の駐在員はコロナ以来、家賃の上昇とWork from homeの影響で、27、8歳で家賃(3500ドル~)約50万円の部屋に住んでいる人もいます。それと、私の周りの駐在員のかなりの人は海外で育って数カ国語話せるみたいな人が多いです。日本人が少ない一方、私が渡米したころと比べるとそういった社交上手でハイスペックな日本人、日系人、女性の駐在員が増えた気がします」
ー 世界の都市ランキング1位のNYは、そんなハイスぺな人たちが世界中から集まる都市でもある。
「確かにとんでもないお金持ちが普通にいますね(笑)。社交界のようなソサエティーもありますし、友人や学校関係の集まりに顔を出せば“ジョン・F・ケネディ校出身”とか“世界的ブランドの一族”みたいな、雑誌かドラマの中みたいな人たちがいて…最近はもういちいち驚かなくなりました(笑)。なのでNYに暮らしていると作品を制作する一方で、どんどん外に出て人とつながっていないともったいないんです」