カーボンニュートラル思考で「まちを創る・守る」 未来に向けてアップデート

地域や施設の課題は多種多様

 東日本大震災と原発事故で壊滅的な被害を受けた福島県浪江町では、復興の柱として再生可能エネルギーの地産地消による街づくりを進めている。ミライト・ワンは、多様な再エネ設備を導入したシンボル的な施設となる「道の駅なみえ」を中心に、9施設を対象としたエネルギーマネジメントシステムを構築した。

 

CEMS:エネルギー管理システムによるエネルギーマネージメント

「太陽光や風力、水素燃料電池など、再エネ設備を最適制御するCEMS/BEMSを導入。電力の需給やCO2削減量をリアルタイムで見える化し、地域の脱炭素化を支援しています。道の駅では、太陽光+EVによるグリーンEVを活用したレジリエンス対策も実装。万が一の停電時にも、施設内の照明電力を賄える仕組みを整えました」(清水さん)

 浪江町の取り組みは、環境省や自治体の視察先にもなっているという。脱炭素の”取り組みモデル”として、全国から注目を集めている。

 


CEMS:浪江町全体のエネルギー利用状況


CEMS:エネルギー実績トレンドグラフ

 自治体だけでなく、商業施設の開発プロジェクトも参画している。札幌市中心部の再開発エリアに2023年7月開業した「AOAO SAPPORO」は、イワトビペンギンをはじめ約250種4000点もの生き物を展示する海に面していない都市型水族館だ。ミライト・ワンは、水族館の各種水槽人工海水システム、ろ過循環システムの温度、塩分濃度、流量、貯留量などのデータやポンプ、電磁弁の動作状況などあらゆる設備機器の情報を取得し最適制御する「LSSコンソール」を開発・導入した(LSS:Life Support System。水族、生き物の生活環境を快適に作り続ける水族館プラントシステムの総称)。

「水族館は、水温管理や濾過装置など、24時間365日休むことなく生命を守り続ける必要があります。当社の強みである通信制御技術を生かし、設備機器の予兆監視や遠隔制御を可能にしました。また、通信回線の追加敷設が難しい箇所(有線・無線共に)には配電線を活用して通信する最新規格の次世代高速電力線通信HD-PLCを世界で初めて実装した事案でもあります」(清水さん)


LSSコンソール:水族館の設備機器監視

 浪江町とAOAO SAPPOROの事例を通じ、清水さんは「クライアントの課題は多種多様」だと実感したという。

「浪江町は復興と脱炭素の両立、AOAO SAPPOROはワクワクするまちの賑わい創りと生き物が安心・安全に暮らせる環境を創るがテーマでした。いずれも、スマートマイクログリッドシステムという共通基盤の上に、地域や案件の個性を落とし込んでいくことを行いました。他にも、工場やオフィスビル、DXによる効率化やBCP強靭化など、さまざまな業態で我々は力を発揮しています。それぞれの課題に寄り添ったオーダーメイド感を大切にしながら、全国の自治体や民間施設に横展開していきたいですね」


市民の行動変容を促す取り組みを

 ミライト・ワンがカーボンニュートラルの実現に向けて動き出してから約3年。この間の変化について清水さんは次のように語る。

「カーボンニュートラルやSDGsへの関心は飛躍的に高まりました。特に自治体からの引き合いが増えていますね。一方で、具体的な進め方が分からず二の足を踏んでいるケースも。だからこそ、経済合理性も大切にしながら、リアルな形で社会実装していく。それが私たちの使命だと感じています」

 今後については、導入しやすいシェアリングモデルを活用しながら、カーボンニュートラル実現に向けた新たな社会実装を進めていく考えだ。

「私たちが目指すのは、再エネ100%で地域の安心と持続可能性を支えるインフラです。今後は、自治体や企業だけでなく、一般の人々の行動変容も促しながら、地球温暖化対策に資する地域社会づくりを進めていきたい。その先には、住民が『このまちに住んでよかった』『ずっとこのまちで暮らしたい』『最後はこのまち、故郷に戻りたい』と思える街の姿がある。カーボンニュートラルの技術を通じて、日本中の地域に明るい未来を運んでいきたいと考えています」

 脱炭素の流れは、もはや不可逆的なトレンドだ。再エネの地産地消など、地域に根差した取り組みを通じて、カーボンニュートラルの輪をさらに広げていくのはすべての企業の責務といえよう。

(取材と文・いからしひろき)

株式会社ミライト・ワン
情報通信設備建設や総合設備事業で培った技術力を基盤に街づくり・里づくりや企業DX・GX、グリーンビジネスやグローバル事業などを展開し、顧客や社会の課題解決と地域の活性化に取り組む。
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