純度バツグンの韓国ノワール映画『このろくでもない世界で』に、全身が震えた!【黒田勇樹のハイパーメディア鑑賞記】

  こんにちは、黒田勇樹です。

  東京都知事選後も何かと騒がしいところ、アメリカの大統領選でもなかなか大変なことが起こりましたね。

  ここで深くは語りませんが、いろいろと興味深くニュース等を追っている今日この頃です。

  さあ、今週も始めましょう。

『このろくでもない世界で』7月26日(金)より TOHO シ ネマズ シャンテほかにて全国公開 © 2023 PLUS M ENTERTAINMENT, SANAI PICTURES, HiSTORY ALL RIGHTS RESERVED.

 まず、簡単に「ノワール映画」の説明から。

“ノワール”というのは、フランス語で“黒”、ここから転じて、犯罪やその犯人を描いた作品群がこう呼ばれます。こう書いちゃうと、広義には「オーシャンズイレブン」とかも入るのかもしれませんが、どちらかというと、もっと画面が暗く、寂れた街で起こるやりきれない「チャイナタウン」みたいな空気感を孕んだものを指すことが多い印象です。

 韓国で言えば、話題をかっさらった「パラサイト 半地下の家族」が最近の“韓国ノワール”の筆頭でしょう。

 今回鑑賞した『このろくでもない世界で』を撮ったのは、なんと長編初監督の方だそうで、脚本も担当されており、自身の経験もかなり参考にされているとのこと。

 何をやっても上手くいかない青年が、閉塞感からどうにか抜け出そうともがけばもがくほど、落ちていき、犯罪組織の一員となり…そこからも、まだまだ落ちる!
 ちいさな選択の間違いだったり、考えのない行動だったり、平和な国の日本から見ると「もうちょっと上手くやれよ…」と、思ってしまう挙動ばかりしてしまう主人公。
 でも、これってきっと“今の韓国の空気”が、彼の判断を鈍らせ、心を圧迫し追い詰めているのだろうと、あまり喋らない主人公を通じて、非常に生々しく描かれていました。

 アメリカでノワール映画ブームが起こった70年代も、黄金期と言われた60年代が終わりオイルショックなどで衰退し、まさに「暗黒時代」と言える時期であり、今“韓国ノワール”の傑作が、どんどん生まれてきているのは、やはり映画と時代の空気には、ニュースと映画ぐらいでしか、韓国の状況を収集できていないので、あまり大げさなことは言えませんが、何かしらのリンクがあるんでしょうね。

 で、何が凄いかというと、先述の「パラサイト〜」とかは、ノワール映画とは言え現代人に見やすくするためか、ちょっとしたコメディ要素とも取れる表現や、ミステリーとかサスペンスとか、あとは派手めのアクションシーン入れたりとかが散見されるんですが、この作品には、そういう媚びたところが一切ない!

 ただ、ひたすら暗くて痛くて辛い。喧嘩や拷問などの暴力的なシーンも、ただただリアルな描写を貫いていて、それが逆に観ている側には、ド迫力で刺さってくる。

 喋らない、殴る、蹴る、盗む、逃げる…昼でも曇ってるし、ほとんど夜のシーン。部屋も暗い!青空なんて劇中に出てくる絵葉書の向こう側以外で見た印象がありません。
 この青空の描写こそが、この映画の本質であり、まさに「ノワール」。
 W主役のイケメンたちの、ひたすら押し殺した骨太な演技に、目も痺れます。

 背骨と心臓をヒリヒリさせたい方、ぜひご覧下さい!

 ちなみに「日本のノワール映画代表」といえば…「仁義なき戦い」ですかね。

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