山田洋次監督『男はつらいよ』55周年に感謝「お客さんが笑ってくれることがものすごく幸せ」

「渥美さんが演じた人物の魅力は、ひと言でいうと自由ってことだと思うんです」と山田監督

 この55年間での変化を問われ「この国の人たちはもっと元気だった気がするの。寅さんは商店街の中で啖呵売をやるんだけど、55年前は魚屋さんとか八百屋さんとかお肉屋さんとか、小さいお店がいっぱいあって、みんなちゃんと商売が成り立ってたんですよ。それが今は小さい商店街がほとんどなくなってしまって、ましてや寅さんのようなちょっとインチキくさい商売はまったく成り立たない」と山田監督。

「今はコンビニで買い物しても、お金を払うと “こっちに入れてください” って機械に入れて、ボタンを押さなきゃいけないじゃない。僕なんか老人だからオロオロしながらボタンを押して、あなたがちゃんとお釣りを出してくれればいいじゃないかと思って。“どうもありがとう” とか “元気?” とか人間同士のやりとりもなくなって、どんどん味気なくなっていく。通信販売になるとお店自体がなくなるでしょう。僕たち日本人は本当に幸せな方向に向かっているのかな、ということは感じています」と訴えた。

 玉袋が「私は学校教育に『男はつらいよ』ってずっと言ってます。昔、学校でみんなで映画とか見たじゃない? そういう時に『男はつらいよ』を一発注入しといたほうがいいと思うんだよね。その頃は分からなくても年取ってきて分かってくる」と持論を述べると「寅さんの間に『家族』(1970)っていうシリアスな映画を作って、函館で上映会をやった時に年配の高校の先生がいらしたの。僕が “先生、今の高校生はこういう映画を見てくれますかね” って言ったら、その先生に “残念だけど、今の子どもたちはこういう真面目な映画は見ない。見るのはギャング映画か寅さんくらいのものでしょう” って言われて(笑)。まさか寅さんも僕の映画だとは言えないから “困ったもんですね” とか答えてね」というエピソードを明かした。