「紅麹」問題の原因はプベルル酸!? 食品機能学・大貫宏一郎氏に聞く情報リテラシーと健康寿命

専門的で難しい健康情報を正しく見極めるには

 では、どのように正しい情報を見極めればよいのだろうか。大貫氏は次のようにアドバイスする。

「健康情報に関しては、“私はこんなに良くなりました” というような定性的な情報は慎重に扱った方がいいですね。全く効果がない成分でも、そう言われると効果が出ていると錯覚してしまうことがありますから。定量的なデータや科学的な根拠を重視すべきです」

 また、医師など医療関係者の解説などにも注意が必要だという。

「医療関係者の方々は患者さんの治療に尽力されていますが、健康食品やサイエンスに関する専門知識は必ずしも高くないことがあります。食品に関する話になると、時に科学的根拠が不十分な発言がなされることもあるのです」

 そのため、大貫氏は「医師の意見といえども鵜呑みにせず、複数の情報源を確認することが大切です」と助言する。

 また、最近では線虫がん検査をめぐるデータの取り扱いでも「誤解が生じている」と指摘し、慎重な見方を示している。

「例えば、陽性的中率(※1)というデータの扱い方について、陽性的中率は有病率によって大きく変動する指標で、がんの一般的な有病率(0.8%)ではどんなに感度(※2)と特異度(※3)が高い検査でも、陽性的中率は総じて低くなる傾向があります。また、線虫検査はがんのリスクを調べるスクリーニング検査なので、確定させるための二次検査が必要ですが、その検査の精度によっても大きく結果は異なります」

 ところが、それらの数値を計算する方法は非常に難しく、長年大学で研究してきた大貫氏でさえも完璧に理解するのは容易ではないという。

 ゆえに「単に陽性的中率の数字だけを見て、検査の有効性を判断するのは危険です。線虫がん検査のような新技術は、がんスクリーニングの分野において非常に有望な技術の一つと思っていますが、先に述べた健康食品同様に偏向した情報のせいで、有益な検査を受けず病気を見逃す危険性があるからです。間違った解釈による報道がされたりしていますが、検査の特性や対象集団の特徴、検査の目的などを総合的にとらえ、客観的かつ冷静に判断する必要があります」と警鐘を鳴らす。

※1=検査で陽性と判定された人のうち、実際に疾患がある人の割合。
※2=実際に疾患がある人を正しく陽性と判定できる割合。
※3=疾患がない人を正しく陰性と判定できる割合。