特殊詐欺の実行犯はまさに“リアル・アバター” 映画『本心』石井裕也監督「この物語は今描かなければ」

『舟を編む』『月』の鬼才・石井裕也が、9作目のタッグとなる池松壮亮を主演に迎え “AI時代”到来の今、世界に放つヒューマンミステリー。今回、脚本も自ら手掛けた石井監督が、平野啓一郎の原作にあった2040年という時代設定を「2025年」に移した「喫緊の理由」とは。

 

 今と地続きの未来。“自由死”を選んだ母の本心を知ろうと、AIによるヴァーチャル・フィギュアとして母を“再現”した青年・朔也。デジタル化が押し寄せる生活の変化に戸惑う朔也は、一層、人の心の不確かさに翻弄されていく…。

――「AIによる人の心の再現」というテーマが多くの人の関心を引きますが、石井監督は普段AIに触れたりしますか?

石井裕也監督「好むと好まざるとに関わらず今はもうAIが生活の中に自然と入り込んでいる状態ですよね。僕は生成AIなどを積極的には使っていませんが。もともと新しいものに飛びつくタイプではないんです。スマホを持ち始めたのも遅かったですし、いまだにタブレットも使っていないんですよ。撮影現場ではスタッフが皆タブレットを使っていますが、僕は紙に書く方が合っていると感じているので(笑)」

――映画監督の仕事柄、SNSや通信アプリも必要なのでは?

石井監督「僕は直接会って話すことが人間関係でとても大切だと思っています。なので、SNSやアプリにはそれほど価値を感じていません。最低限の連絡を取るためのショートメッセージで十分。周囲からは“〇〇やってないの?”とよく言われますが(笑)。誰かに伝えるべき本当に大切なことなんて、実はそう多くはないと思います」

 コミュニケーションの本質を大切にする石井監督のもとには、今回も日本映画界を牽引する実力派俳優が集結。石井監督と何度もタッグを組んできた池松壮亮をはじめ、朔也の母・秋子役には田中裕子、秋子の素顔を知る謎の女性・三好役に三吉彩花、さらに水上恒司、仲野太賀、綾野剛、田中泯、妻夫木聡などが名を連ねている。

石井監督「AIをふんだんに扱った映画ですが、根本は“人間の本心”をめぐる物語なので、今回は俳優の身体性が非常に重要でした。基本的に身体は嘘をつけませんから。ふとしたまなざしから手の動き、背中まで、見事に表現してくれる俳優たちがそろってくれたのは幸運でした」

――監督は「新しいもの好き」ではないとおっしゃいますが、AIという題材には興味があったのでしょうか?

石井監督:もちろんです。この時代に立ち向かうべき最大のテーマと言っても過言ではありません。AIという現代的なトレンドを扱うことにも意味はありますが、AIや仮想空間というモチーフを使うことで人間の心や尊厳というものがヴァーチャルな世界観との対比によってより一層生々しく浮かび上がるのではと思ったんです」

     

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