ムード歌謡、初めての恋…タブレット純「ブレずにやっていれば、何となく道が開けていく」

過去の出来事を思い浮かべて、自分の心の中に広がる想像の世界が好き
今や国内のみならず海外でもブームが巻き起こっている昭和歌謡。純がムード歌謡を知ったきっかけは、ラジオから流れてきた音楽だ。
「中古レコードは子どもの頃から集めていて、昔は歌謡曲のレコードがぞんざいに扱われていたので、3枚100円のコーナーがあったりタダでもらったりしたこともありました。レコードジャケットを見ると “この人たちはこの感じだな” という色があって、『夜霧の~』というタイトルでおじさんたちが集団で写っていると、明らかにロックではないなとか(笑)。自分なりに “これがムードコーラスなんだな” とか “グループサウンズなんだな” というのを見分けていました。
ナイトクラブの映像を思い浮かべて、そこで恋愛模様があってと想像する3分間が好きなのかな。過去の出来事を思い浮かべて、自分の心の中に広がる想像の世界が好きなのかなと思います。当時買った人はどういうシチュエーションで聞いていたのかな、恋してる時に聞いていたのかなとか、そういう全体の息吹を感じてキュンとするみたいな感覚があって。タイトル買い、ジャケ買い、歌い手の顔や表情でレコードを買っているうちに自分だけのヒット曲がたくさん出てきて、学生時代はひたすらレコードを買って、いいものを聞きたいという欲を満たしていましたね」
そんな純に『ムクの祈り』と一緒に聞いてほしい歌謡曲をおすすめしてもらった。
「モコ・ビーバー・オリーブの『海の底でうたう唄』です。“私達が逢ったのは静かな海の底” という歌詞から始まるシュールな歌なんですけど、僕はこの歌が結構好きで。静かな海の底で読者の方と響き合えたらうれしいかなと思うので、この歌を聞きつつ本を読んでいただけたら」
今後の執筆活動については「自分のことはある程度書けたと思うので、ちょっともういいかな」と言いつつ、次回作の構想を次のように話す。
「架空の物語とかは書けないんですけど、自分の中で歴史に埋もれてあまり取り上げられない人がいるので、そういう方の人生を追って書いてみたいです。実は昭和のプロレスも大好きで、大正生まれの最後の生き残りと言われる人がいまして。力道山に見込まれたのに万年前座レスラーで、裏方としてリングの設営までしていたのですが、レスラー生活の晩年になぜかタイガー・チョン・リーという名前で覆面レスラーをしていたらしくて。その方の親族を探してタイガー・チョン・リーのマスクの現物を探す『大正生まれのタイガーマスク』という本を構想しています(笑)」
最後に、読者への思いを聞くと「こんなひどい人生を送ってきた者でも外に出れば、そして好きな物からブレずにやっていれば、何となく道が開けていくということを感じてもらえたらうれしいです」と打ち明け、そっと微笑んだ。
(TOKYO HEADLINE・後藤花絵)