“知の巨人” ハラリ氏、フェイクや陰謀論はびこる背景に言及「真実は本当に希少なもの」

聞き手を務めた伊藤公平慶應義塾塾長(左)とハラリ氏

 人間同士、そしてサイバースペースと物理的な世界との分断が進む現代。その中で教育が果たす役割をハラリ氏は「まず理解しなければならないのは情報=真実ではないということ」と断言。

「真実は本当に希少なものでほとんどの情報はゴミだ。フィクションとファンタジーとうそとプロパガンダばかりだ。なぜかと言うと真実にはコストがかかり、フィクションは安上がりだからだ。現実が複雑なように真実というのはとても複雑で、大抵の場合、現実の一部は聞いていて気持ちのいいものではない。非常にコストがかかり複雑で苦しみを伴う真実と、安くてシンプルで読みやすいフィクションがあったらみんなフィクションを読むだろう。

 だからこそ教育機関は単に情報を提供するのではなく、方法論を提供するべきだ。海のような情報の中で希少な真実をどう見つけるか、そして真実とうそをどう見分けるのか。私が歴史学で学生たちに教えているのは、本当に信頼できる歴史的な事実とうその事実をどう見分けるのかということだ。何千年も前の記録を見つけた時に、この王様が戦争に勝ったということが本当なのかどうかを見極める方法を教えている。教育機関がやるべきことは、信頼できるものとできないものをどう見極めるかということなんだ」

 差し迫った課題は「人間同士でどのように信頼を醸成するか」だといい「今やすべての社会的な制度は新しい情報システムに根ざし、人間はコンピュータを通じてコミュニケーションしている。なぜ人間同士の信頼はここ10~20年で崩れてしまったのか。現代は疾病や乳児の死亡率において大変いい状況にもかかわらず、多くの人は怒りや不満を抱えお互いに会話できなくなっている。その理由は新しいシステムが人間の間に介在したからで、多くの人間のコミュニケーションは、人間ではないエージェントが介在することで大きな混乱を起こしている」とハラリ氏。

 信頼を再構築するために「膨大な人間と人間の間に情報システムが介在する中で、どうやって信頼し合うのか改めて考えることだ。私の役割は専門家と一般の人々との間に橋を架けること。今、学術的な研究の世界では専門家同士で話をして、その中で使われているのは難解な専門用語だ。だから学術的な世界で発見した最新の理論を、高校生でも理解できるようにかみ砕いて説明する。コンピュータを勉強したことがない、グラフや方程式が分からないという人が平易な言語でAI革命とは、情報ネットワークの歴史とは何かを理解できる。それを意図して私は『NEXUS』を書いているんだ」と呼びかけた。

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