イーロン・マスクの弟キンバルも惜しむ日本の農業後継者不足 最先端コンテナ農場で高い技術を次世代へ

キンバルとトビアスが感動した日本の農業技術を次の世代につなげるために
都市型農業のメリットを最大限に発揮するSquare Rootsのプラットフォームは創設当時から大きな注目を集め、シードラウンドで米大手VCのCollaborative Fundから540万米ドルを調達するなど、ビジネスとしても大きな期待が寄せられている。その初の海外法人となるSquare Roots Japan(港区南青山)の代表取締役CEO松本舞氏も、日本での展開に大きな可能性を感じた1人だ。
「もともと私は法律や公共政策を学んだ後、防衛や安全保障の分野に携わる行政の仕事についたのですが同時に食や健康にも強い関心を持っており、前職を経て、食に関する情報発信やプロモーションを手がけていました。その仕事や育児を通して、都市に暮らしながら新鮮で健康的な食品を日々の食卓に乗せることの大変さ、日本の農業が今抱えている課題や今後の持続可能性といったことに目を向けるようになったのです」
残留農薬や遺伝子組み換え食品への不安、気候変動により深刻化する作物への影響、長距離輸送によるコストおよび環境負荷に加え、日本の場合は少子高齢化による従事者不足といった“持続不可能性”も大きな懸念材料だ。
「コロナ禍、都内で新鮮な野菜を買うのが大変だった時期がありましたね。アメリカの多くの大規模農場でも海外から来た働き手がいなくなり、収穫や出荷ができず輸送も滞っていましたが、当時Square Rootsはウーバーイーツと提携して、ブルックリンのコンテナ農場から、とれたての無農薬野菜を近隣の消費者に届けることができていました。これは、農業従事者不足や都市への人口集中といった課題を抱える日本でも大きなヒントになるのではないかと思うのです」
日本法人設立のきっかけの一つとなったのが、5年ほど前のトビアスの訪日。北海道のイチゴ農家を訪れた彼は、そこで作られたイチゴのおいしさに感激。しかし後日、その農家は後継者不足により廃業。技術は受け継がれることなく、幻のイチゴとなってしまった。世界にも類を見ない高い品質の農作物を育成する技術を持ちながら、承継の危機に直面している日本の生産者は多い。その日本を、世界で最初の海外法人の地に選んだキンバルは日本の優れた農業技術をSquare Rootsのプラットフォームを通して次世代につないでいきたいと語っている。
「Square Roots Japanでは、日本が誇る農業技術の保存・活用にも注力しながら、日本の農業に合わせた、新たな最先端屋内農業を展開していきたいと思っています。既存の農家さんとも協力体制を取り、日本の農業の活性化につなげたい。農業における働き方の多様性を広めて、次世代を担う若手はもちろん、リタイアした方や副業で農業をしたい方など、農業従事者の幅を広げることもできると思います。現在の予定では、今年の秋には都心にデモファームを設立し、パートナー企業と連携して地域のニーズに合わせた作物の生産・流通モデルを構築する予定です」
兄イーロンとともにテスラやスペースXを率いて、自動車、宇宙、物流と、次世代を見据えた事業を展開してきたキンバル・マスク。このSquare Rootsもまた、持続可能な未来への挑戦の1つ。
「生産者、消費者はもちろん、さまざまな分野の日本の企業にも関心を持っていただいて、日本を拠点にアジア、そして世界へ向けた、新たな食のイノベーションを起こしていきたいと思っています」
(TOKYO HEADLINE・秋吉布由子)