米国がビンラディン容疑者をパキスタン国内で殺害
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オバマ米大統領は1日夜、ホワイトハウスで声明を発表し、2001年の米中枢同時テロの首謀者で、国際テロ組織アルカーイダの指導者ウサマ・ビンラディン容疑者を米国がパキスタン国内で実施した作戦で殺害したことを明らかにした。
オバマ大統領は、ビンラディン容疑者が、パキスタンの首都イスラマバード北方のアボタバードの施設に潜伏しているとの情報を昨年8月に受け、前週に拘束・殺害作戦を了承したと発表した。
現地時間2日午前1時過ぎ、米海軍特殊部隊(SEALS)を主体にしているとみられる部隊が、4機のヘリコプターでビンラディン容疑者が潜伏する施設へ降下して急襲。ビンラディン容疑者が抵抗したことから、銃撃。同容疑者は頭部を打たれ死亡した。その後、3日には同容疑者は丸腰だったことが発表された。「生け捕り」を目指したとはいうものの、今後、「なぜ射殺したのか」という批判が高まりそうだ。
同容疑者の遺体は殺害後、特殊部隊が妻に確認をさせてから科学的な鑑定を施した。そして北アラビア海に展開中の米原子力空母カール・ビンソンに移送され、水葬が行われた。
まず遺体をイスラム教の慣習にのっとって清めてから白布で包み、袋に収めた後、重しとともに海中に。米軍士官が英語で祈りの言葉を読みあげ、アラビア語に翻訳されたという。
米側は「遺体を引き取る国がなかった」「イスラム教にのっとって24時間以内に葬る必要があった」と説明しているが、土葬すれば遺体の奪還や埋葬地の聖地化が懸念されたためと思われる。
ビンラディン容疑者が潜伏していたこの施設は2005年に、突如建設された。高いところで5メートルの壁で囲われ、周囲の建物の8倍ほどの広さだったという。
米情報当局は少なくとも4年以上の情報収集で同容疑者の側近がこの施設に出入りしていることを発見した。この施設は電話もインターネットの回線も接続していない。そのために同容疑者にメッセージや情報を伝える側近の存在は不可欠だった。
オバマ大統領は今回の襲撃作戦時、ホワイトハウスのシチュエーションルーム(緊急対応室)に安全保障チームを招集し、現場から送られる映像を通じて作戦を見守っていた。
また今回の作戦はパキスタンに事前連絡をすることなく、米国単独で行われた。それはパキスタン政府から情報が漏れることを恐れたためとされる。
パキスタン国内では過去、大物テロリストが相次いで拘束、殺害されており、同国がテロリストに隠れ家を与えているとの批判は根強く、政府は懸命にこうした疑念の払拭を図っている。
パキスタン外務省報道官は3日、米国がビンラディン容疑者殺害を事前に連絡しなかったとして「深い懸念を表明する」との声明を発表した。
また、ザルダリ大統領は2日、米紙ワシントン・ポスト(電子版)への寄稿で、ビンラディン容疑者について「想定されていた場所にはいなかった」として、パキスタン側が居場所を把握していなかったことを強調した。さらに、パキスタンが同容疑者らテロリストをかくまってきたなどとする指摘を、「根拠のない臆測」と一蹴した。
しかし、政府の対テロ姿勢を疑問視する声は国内からも上がっている。3日付のパキスタン各紙は、ビンラディン容疑者がどうやって、治安当局の監視の目をかいくぐってイスラマバード北方の豪邸に移り住めたのかなどについて疑問を投げかけた。パキスタン政府は改めて厳しい立場に立たされている。
ただ今回のビンラディン容疑者の死でテロが終わったわけではない。パキスタンの反政府武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」の報道官は2日「パキスタンの指導者、ザリダル大統領、パキスタン軍はわれわれの最初の標的となる。米国はその次だ」と報復を宣言した。