「超法規的措置」菅首相の“要請”で浜岡原発停止

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 菅直人首相は6日夜、首相官邸で緊急記者会見し、中部電力浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)のすべての原子炉の運転停止を中部電力に要請したことを明らかにした。理由として「この地域は30年以内にマグニチュード8規模の東海地震が発生する可能性は87%と極めて高い」と述べた。これを受けた中部電力は7日、臨時取締役会を開き、政府の要請を受諾するかどうかを協議したものの、結論は持ち越し。9日の臨時取締役会で政府の要請を受け入れざるを得ないと判断した。休止中の火力発電所再開や他の電力会社からの支援などで電力を確保。計画停電は行わず節電を呼びかける。ただ、需要が高まる夏に電力需給が逼迫(ひっぱく)することは確実で、復興を目指す日本経済への影響も懸念される。

 稼働要件を満たして運転中の原発を法的な裏付けのないまま停止させるのは極めて異例の事態。7日夕に経済産業省原子力安全・保安院で会見した西山英彦審議官は「浜岡については、法律を超える判断があった」と監督官庁としての戸惑いを隠せなかった。

 中部電の水野明久社長に海江田万里経済産業相から「浜岡を停止してほしい」という要請の電話が入ったのは菅直人首相が停止要請を表明した緊急会見の直前で唐突感は否めない。

 中部電では「法に基づかない要請で赤字になった場合、株主に説明がつくか」といった問題が議論されたが、首相の“要請”の意味はあまりにも大きく飲まざるを得なかったというのが真相か。

 中部電は、発電に占める火力の割合が75%と他電力に比べ際立って高く、業績は燃料費に左右される。原発の完全停止で火力の燃料費は年間約2500億円も増えるとなると、同社が平成24年3月期に見込む営業利益1300億円も吹き飛ぶ計算になる。


 なぜ今!? そして浜岡だけ!? という声は各所から聞こえる。

 浜岡原発は東海地震の想定震源域のほぼ中央に位置するため、その安全性がたびたび議論されてきた。しかし、国はマグニチュード(M)8程度の想定東海地震が起きても十分な耐震性があると評価し、現在も法的には稼働可能な状態にある。

 予測は昨日きょう判明したものではなく、東日本大震災で切迫性が増したわけでもなく、やはり唐突感は否めない。

 しかし菅首相が今回の要請に踏み切ったのは、国が東日本大震災の巨大地震と大津波をまったく想定していなかった事実を重く見たため。特に津波は東京電力福島第1原発で想定の約2倍に達し、重大な事故につながった。

 この反省に立てば、東海地震が想定通りにとどまる保証はない。安全性の確保を最優先するため、防潮堤設置などの対策が終了するまで浜岡原発を一時的に停止すべきだとする首相の判断については8日、大阪府の橋下徹知事が「政治家にしかできない英断」と評価した。

 一方で米倉弘昌日本経団連会長は9日の会見で、中部電力浜岡原発の全原子炉停止を要請した菅直人首相の対応について「唐突感が否めない。自分の意見を公にしてから中部電に説明するという手順は政治的パフォーマンスにほかならない」と厳しく批判した。

 また事故でも定期点検でもない稼働中の原子炉を止めることは、原発を主軸に据える国のエネルギー政策にとって極めて重大な意味を持つ。しかし菅政権は「浜岡は例外」と繰り返すだけで、長期的な政策の展望は示せないでいる。

 中部電はこれまで東京電力や九州電力へ電力融通をしていたのだが、これも取りやめることになる。先日、東電は今夏の電力供給に希望的観測を表明したが、それも中部電の電力融通を前提としたもの。またぞろ、東電エリアの電力不足が懸念されることになりそうだ。