安倍晋三元総理が語る「これからの日本」
第27回リバティ・オープン・カレッジ2011
現代の若者たちが「自分のモノサシ」を持った大人になることができるよう、先人たちの知恵や経験を継承させていくことを目的としたセミナーである「リバティ・オープン・カレッジ」(主催・二十一世紀倶楽部)が10月31日に開催された。27回目となる今回は元内閣総理大臣の安倍晋三氏を講師に迎え、『これからの日本を考える。あぶないぞ日本。』をテーマに行われた。
「これからの日本」を語る安倍晋三元総理(撮影・神谷渚)
実は今回の「リバティ――」は4年ぶりの開催。前回は2007年6月。故中川昭一氏による講演だった。中川氏は二十一世紀倶楽部の顧問として、その活動を支え「リバティ――」でも3度講師を務めた。中川氏は安倍内閣時に政調会長を務め、いわば同志といった間柄。「リバティ――」が安倍氏の講演から再開するというのも、中川氏の見えない力によるものか…。
内政と外交の両面からこの日のテーマを語る安倍氏。最初の話題は「3.11からどう復興するのか」。阪神大震災、関東大震災時の政府の対応と比較しながら、増税により復興予算の財源の確保を図る現政権を厳しく非難した。
「今回は世論調査も珍しく増税を良しとしている。しかし経済政策としては間違っていると思います。世界で災害の復興のために増税をした国はひとつもありません。なおかつ日本は今、10年以上デフレが続いている。デフレ下で増税しても税収は増えない。増税は税収を上げるのが目的なのに、これでは国民にとっては踏んだり蹴ったりだ」と語った。
そして今やるべきことは「名目GDPを増やすしかない」としたうえで、「消費税の増税のタイミングを誤ってはならない」と警鐘を鳴らした。
元衆議院議員の中山泰秀氏をゲストにトークショー
真剣な眼差しで安倍氏の言葉に耳を傾ける
続いては安倍氏の得意分野である外交面から現在の日本の置かれた状況を語った。
「民主党政権の問題点は日米同盟が悪化したこと。信頼関係が薄れたんですね」
そして知っていそうで実はよく理解していない日米安保条約について解説。
「新安保条約では5条にアメリカは日本を守るという防衛義務条項が書かれました。つまりは日本のためにアメリカの若者は命をかける、ということ。その逆はないんですね。ただそう書いてあるからといって、アメリカが自動的に守ってくれるというわけではない。“行動対処する”としか書いてありませんから。命をかける米軍の兵士たちにも、愛すべき家族や恋人がいるかもしれない。そういう人たちが日本のために命をかけているということを理解し、それを了解しなければ条約は効力を発揮しない、というふうに考えていただいたほうがいいんだと思います。そのために何が必要かといえば信頼関係なんです。その信頼関係を踏みにじっては同盟関係自体も危うくなっていくんですね」
そしてみんなが気になる尖閣問題。「尖閣には米軍は行きません。なぜかというと、あそこには誰も住んでいないから。まずは私たちが命をかけて守らなければ、彼らが守ってくれるわけがない。その延長線上で中国と事を荒立てたときにアメリカは日本とともに戦ってくれるんです。これが日米同盟だと理解していただきたい。その根本が民主党は分かっていなかったから、現在の状況になっている」と、民主党政権になってからの日米同盟の悪化には眉をひそめた。
基調講演の後、元衆議院議員の中山泰秀氏をゲストに迎えトークショーが行われた。中山氏は安倍内閣時には外務政務官を務めたとあって、話題はやはり外交問題へ。
冷戦時、1962年に起こったキューバのミサイル危機のときのアメリカのケネディ大統領とソ連のフルシチョフ書記長のケースなどをあげ「外交はゲームに近い。武器を使わない戦争。あらゆる力を使って戦うゲームと思ってもらえれば。相手の出方をうかがうのが大事」としたうえで、「中国との外交はゲーム性が強い。だから間違ったメッセージを出してはいけない。善意は通用しないんです」と語った。
例として鳩山由紀夫総理が日中韓の首脳会談の冒頭に温家宝に向かって放った発言を取り上げ「それ以来、東シナ海や尖閣が騒がしいことになっている。甘い対応をすると相手が間違った行動を起こすという典型的な例」と断じた。
そして中国のゲーム性の強い外交戦術に屈しなかった例として小泉純一郎元総理を上げた。
質疑応答を終えた安倍氏は最後に「自分の判断基準を持つこと。情報が氾濫している現代だが、それに翻弄されないように、自分で何が正しいのかを判断できる基準をもつことが大切」と聴講者にメッセージを送った。