「雪と珊瑚と」
21歳の珊瑚は、生まれたばかりの雪と2人で暮らすシングルマザー。職もなく、働きたくても雪を預かってもらえる所もない。わずかな貯金を取り崩しての生活に、心も体も疲れ果てていた時に見た1枚の張り紙。「赤ちゃん、お預かりします」。追いつめられた状況の中、その張り紙が珊瑚の人生を変えることとなる。
雪を預かってくれるという女性が作ってくれた温かいスープ、滋味ある言葉に珊瑚は生きる力が息を吹き返していくのを感じたのだ。母親から見捨てられ、雪の父親からも別れを告げられ、ひとりぼっちで雪を守り、戦ってきた珊瑚が選んだ道は、彼女が作ってくれたような、食べるとホッとして元気になれる食事を提供すること。貯金も担保も経営ノウハウも何もない珊瑚は、多くの人に助けられ、その夢の実現のために動き出した。
殻に閉じこもり、一人で雪を育ててきた珊瑚が、それらの出会いを通し自分と雪、そして他人との距離を徐々に近づけていくのだが…。
生きることは、こんなにシンプルでたくましいことなのだと気づかせてくれる優しく力強いストーリー。活字だけでも元気になりそうな、素材の旨みがこぼれ出るような料理の描写も絶品!
「雪と珊瑚と」
【著者】梨木香歩 【定価】本体1500円(税別) 【発行】角川書店