ニュースの焦点 尖閣売却問題迷走 買うのは国なのか東京都なのか?
政府が尖閣諸島(沖縄県石垣市)を約20億5000万円で購入し、国有化することで地権者と大筋合意したことが5日、分かった。今月中旬をメドに、今年度予算の予備費から購入経費を拠出することを閣議決定し、地権者と契約を結ぶ。東京都の石原慎太郎知事は同日、尖閣購入のために都が集めた14億円超の寄付金を国に譲渡する意向を示し、藤村修官房長官は「可能か検討が必要」と述べた。
国有化対象は尖閣諸島の5つの島のうち魚釣島と北小島、南小島で、現在は国が賃借契約を結んでいる。
長浜博行官房副長官が3日に地権者の男性と協議し、国有化で合意。石原氏が国有化容認の条件とした漁船待避施設の整備などは中国の反発に配慮し、当面行わないことも確認した。
これを受け、長島昭久首相補佐官が4日、石原氏と会談。石原氏は5日、記者団に「地権者と政府が折り合ったなら口を挟める問題ではない」と語った。東京都の猪瀬直樹副知事は「電車を並んで待っているのに、割り込んで席を奪うようなもの」と批判。「都は価格算定のために現地調査するなど、民主主義のルールに基づいて購入しようとしているが、政府の20億5000万円の根拠は不明だ。納税者に説明ができない」と語った。
関係者や登記簿によると、ある金融機関は地権者の不動産に極度額20億円以上の根抵当を設定。負債が売却の原因になった可能性もうかがえる。
一方、地権者の男性と親交のある山東昭子前参院副議長(自民)は5日、都内で会見し、「政府が先走っているだけじゃないか」と述べた。山東氏によると、地権者の男性は同日朝、尖閣諸島の政府への売却について「いま迷っている」と述べたという。また地権者の弟、栗原弘行氏(65)は「兄から合意についての連絡はない。土地の評価額が決まっていないのに、合意することはあり得ないのでは」と話した。
政府が購入するとなると、寄付金の扱いなど新たな課題も生じてくる。
都は3月、寄付金の専用口座を開設。口座には今月4日現在で、10万1397件、計14億6395万5053円が集まっている。
国と地権者の合意が報じられた5日には、都庁の尖閣問題専用電話は鳴りっぱなしに。寄付金の返還を求める声もあったが、「今でも都が購入すべきだと思う」と、都の購入を支持する声が大半だった。
石原氏は5日、「政府が購入するなら義援金(寄付金)は政府に渡す」と述べ、「寄付した人たちは心外だと思うが、地権者が国の言うことで折り合ったなら私たちは口を挟めない。説明の手紙を一人一人に出す」と話した。
知事の発言を受けて、政府は寄付金の譲渡が可能か検討するとしているが、手続きは不透明だ。