Hi-Hi インタビュー 「ただ、笑ってもらえれば」
今年人気が爆発したお笑いコンビの筆頭格であるHi-Hiが13日、書籍『リストラ芸人』を出す。ブレイクするまでの長い潜伏期間を、ありのままに綴ったこの本は、まさに“18年のすべてを放り込んだ”大作。さまざまな苦難を経て、人気コンビになった彼らのストーリーは、しょんぼりした日本を元気にしてくれそうだ。
1980年代にツービートやB&Bらが盛り上げた『THE MANZAI』が、その年に最もおもしろい漫才師を決める大会として、昨年末カムバック。M-1とはがらりと雰囲気を変えたこの大会に愛されたコンビがHi-Hiだ。優勝こそできなかったが、“思いつき”漫才と、「漫才楽しい〜!」の一言で視聴者のハートをがっちりとつかんで、お笑い好きなら知っているというくらいの存在から、テレビのレギュラーや「Hi-Hiのオールナイトニッポン0」という冠ラジオ番組も持つ人気コンビになった。
昨年、決勝大会進出が決まった時、上田浩二郎(以下、上田)は、自分たちを「誰にも愛されてこなかった」と言ったが、今は「……多少は愛されてるかな」と、照れくさそうに笑う。「ライブを見に来てくれる人が増えたし、まったく知られていなかったのが、“どっかで見たことがあるよ”っていうぐらいにはなってるのかな。ラジオでもリスナーの方がたくさんハガキを送ってくれるし、俺らの悪ノリにものってくれる」。
長い潜伏期間だった。コンビを組んでからここまで18年超。その間のもがきやあがきをありのまま記し、1冊の本にまとめた。タイトルは『リストラ芸人』。以前所属していた事務所からリストラされた経験をそのまま使った。「俺ら、一回リセットされてるんです。少し休むといいっていうのがありますけど、いい方向に転がりました」と岩崎一則(以下、岩崎)。そして上田も言う。「辞めて、事務所を変わって……悔しさもあったから、今の自分たちがある」。
ボケは上田、ツッコミは岩崎。本でも、自分たちのスタイルを貫いている。著者は上田だが、岩崎がエピローグでちゃんとツッこむ。「対話形式で行くという案もあったんけど、いろいろ考えた結果というか、蓋を開けたらこうなってたというか。ネタも、ネタの作り方も、日ごろの関係性もそうなんで、このスタイルが一番良かったし、“らしさ”も出てると思いますね。……というか、僕たち、それしかできないんですよ(笑)」と、上田。岩崎も「ここはこうだっただろう!っていうのも特にないですし、うちの人の思っていることを入れてるだけなんで、任しちゃってもいいのかなって」。こうしたやりとりさえも、いつもの漫才の調子と同じだ。
本には、いくつもの失敗と、それ以上の励まし、出会いや別れが綴られ、2人のリアルが読み手の涙腺を刺激する。
「他人にどう見られてるんだろうって気にしたり、カッコつけて芸人を長くやってきたから、本当に自分のダメなところも書いて、嘘なしにしたかった。だから、全然(感動だとか)狙ってなくて……。ただ、そういう人生だった。思うんですけどね、この本、第7章があるからいいけど、なかったら、ただのクソ芸人の話です」(上田)
7章には転機となった『THE MANZAI』のことが書かれている。
「芸人仲間と飲んでてベロベロになると言うんですけど、何十年も芸人をやってるやつってみんな同じとこにいてね、俺らは波がたまたま良かっただけだって」(上田)
「だからこの本は、そういうたくさんいるコンビの代表として俺らが書いて出した、そういう本だととらえていただいてもいいのかなって思います」(岩崎)
気づけば今年も残すところ4カ月。『THE MANZAI』も近づいてきた。Hi-Hiは50組の認定漫才師に残り、10月から始まるサーキットに備える。昨年の結果があるだけに、注目も集まるが、「気負いはない」と口をそろえる
「去年は、あのメンバーで自分たちが勝つことなんて考えられなかった。だからこそ、一本のネタをちゃんとできたらいいなって臨んで、それが結果につながっただけなんですよ。だから、笑ってもらえれば、今思っているのはそれだけですね」(岩崎)
いうまでもないが、『THE MANZAI』が彼らのゴールではない。
「大会で優勝するとかそういうのじゃなくて、ただこのままやっていきたいなって。考えて、作戦を立てて失敗してきたから、今は、なんていったらいいんだろう、趣味が仕事になればいいっていう感覚なんです。そこまで漫才にこだわっているわけじゃないし、その時にやりたいと思ったこと、楽しいこと、自分の人間性がでるような笑いはやってきたいと思ってます」(上田)
「僕ら、笑えるものをやってたら、結果、漫才になってたんでね。漫才をやってお客さんも笑ってくれるし、僕たちも楽しいし、だから今は漫才だってことなんだと思います」(岩崎)
ここでも、やっぱり“思いつき”? このコンビ、“まんま”だ。
(本紙・酒井紫野)
上田浩二郎著
芸人収入ゼロ、リストラ、気づけばもうすぐ40歳!それでも笑いをやりたかったHi-Hiの軌跡を綴ったノンフィクション。講談社より9月13日発売。1300円(税別)。