岩井秀人インタビュー
10月4日からパルコ劇場で上演される舞台『ヒッキー・ソトニデテミターノ』。なんとも人を食ったようなタイトルに聞こえるかもしれないが、実は現代社会に横たわる深〜くて重〜いテーマを扱った問題作なのだ。いやホントに!!
“ヒッキー”とは引きこもりのこと。本作は作・演出を務める岩井秀人の代表作である『ヒッキー・カンクーントルネード』のその後を描いた新作。10年間自宅に引きこもっている登美男と家族ら周囲の人々との関係を“喜劇”として描いた前作は過去、時と場所を越えて7回も上演されている。
「今回はもともとは『ヒッキー・カンクーントルネード』をやる予定だったんですが、(主役の登美男役の)吹越さんとお話をしたときに“ハイバイは何度か見ていて面白いから出たいんだけど、今まで演じてきた人たちと比較されるのはちょっと…”って言われたんです。もともと“レンタルお兄さん”の取材を改めてしてみたいということもあって、“じゃあ新作を考えてみます”ってことになりました」
レンタルお兄さんというのは引きこもっている人の自立支援策であり、それを行う人たちのこと。劇中では「出張お兄さん」という名称で登場する。引きこもることをやめた登美男は「出張お兄さん」として、今度は引きこもる人々に接していく。実は岩井自身引きこもっていた時期がある。登美男は岩井自身?
「登美男は僕のあるタイミングのMAXピンチだったころが凄く照らされていると思います。もちろん全部が全部ではないですが」
岩井の作品は「自意識」「集団と個人」ということにスポットをあてたものが多い。
「寂しいから誰かに会いたいとか、知らせたいとか知ってもらいたいというのは誰でも一緒なんですけど、その表現方法は個人によって全然変わってくるじゃないですか。全く寂しそうに見えない人もいれば、その寂しさを伝えようとしているうちに激怒していって、自分を認めてもらいたいだけなのに、自分が傷ついてきた話だけをする人っているじゃないですか。自分にもそういう部分があるからだと思うんですが、そういうのが僕は凄く笑えるんです。だから自然とそういうことばかりを書くようになったんですね。そのうちに僕の作品を見た誰かが“自意識”って言う言葉を使って評価するようになったような気がします。それとは別に、ある劇作家の方には“岩井君の書くものって全部トラウマだよね。恐怖だよね”って言われました。“ああそうかもな”とも思いましたね」
劇中、引きこもりに対する存在として、どんなところにも順応してしまうという「飛びこもり」という概念が出て来る。もちろんこれはフィクション。独特の発想だ。
「僕から見ると、なんでみんなそんなに適応できるんだろうっていう思いが凄くあったんです。全くルールが分からないところで無意識のうちにそこのルールを把握してうまいことやっているということに、物凄く違和感があったんです」
引きこもりから見ると「それは行きすぎだろう」ということで飛びこもり。
「他人というのは何人もいて、それぞれが欲求を持っている。その中で自分も欲求を持っていて、そのお互いの欲求をどこで折り合いをつけていくのかというのがコミュニケーションだとすると、僕の当時の問題は他人をすべて優先させるというのが問題だったんです。そういう人はたくさんいますよね。そして程度がある。ある程度以上だと異常。じゃあそこが全然遠慮がなければ異常じゃないのかっていったら、今度は逆の方向で異常になっていくというところのグラデーションに興味があったんです。どこに行っても人になじめないっていって適応できないのも異常だけど、行った瞬間から物凄い友達みたいに話している状態だって異常だと思うんです。そういう人いますよね」
そして吹越に白羽の矢を立てたのは?
「舞台は全然見たことがなかったです。以前、ロボコップのネタは見たことがあります。最近では『冷たい熱帯魚』など映像作品は見ていました。ハイバイを見に来ていただいたときにお話ししたことはあったんですが、特に親交があったわけではなかったんです。ムーチョ村松さんという映像作家の資料DVDを借りて見ていたときに吹越さんのソロアクトの映像も入っていて、それを見たときに、役人物をやる吹越さんとその役人物との距離感みたいなものが、この人は独特だな、面白いなって思ったんです。そんなに入れ込まない。例えば泥棒という役があったときに、泥棒という役になろうとしない。そんな話をしたら、いろいろと共感できる部分が多かった。吹越さんの出演が決まった後も、二人で取材を受けたときに、結構そういう話になることが多くて、ことごとくそういう感覚が合っているなと思います。あと、チラシの写真撮影のときに、まだ台本ができていなかったんですが、しょぼい服を着せた時にしょぼい歩き方になった。着たもので身体が変わってしまう。あの感覚が素晴らしいと思いました」
岩井は俳優としても評価が高く、最近では映画『桐島、部活やめるってよ』で映画部の先生としてきらりと光る存在感を見せた。また初めてのテレビドラマの脚本で「向田邦子賞」を受賞するなど、さまざまな分野で注目を集めてきている。この顔、覚えておいて損はない。
(本紙・本吉英人)
【日時】10月4日(木)〜14日(日)
【会場】PARCO劇場(渋谷)
【料金】全席指定 前半料金5800円(〜8日まで)/後半料金6500円(9日〜)/U-25チケット4500円(要問い合わせ)
【問い合わせ】PARCO劇場(TEL:03-3477-5858〔HP〕http://www.parco-play.com/)
【作・演出】岩井秀人
【出演】吹越満、古舘寛治、チャン・リーメイ、有川マコト、占部房子、小河原康二、田村健太郎、金原祐三子、岸井ゆきの