ペヤンヌマキインタビュー

女って怖い…!? ブス会*新作公演『女のみち2012』

「女」を中心とした群像劇を描く演劇ユニット「ブス会*」の新作公演『女のみち2012』が10月11日から下北沢のザ・スズナリで上演される。

 ブス会*はもともとポツドールの番外公演“女シリーズ”として、ペヤンヌマキが作・演出の『女のみち』を発表したのが前身。2010年にブス会*として旗揚げし、今回が3回目の公演。『女のみち』は現役のAV監督でもあるペヤンヌマキがAVの撮影現場を舞台にAV女優たちの姿を赤裸々に描いた作品だった。今回はその6年後を描くという。
「群像劇にはひと区切りを付けようと思っていて、その前に『女のみち』の再演をやろうかと思ったんです。でも私の場合、当て書きの部分が大きいので、再演というのもピンと来なかった。もし同じキャストが揃ったとしても、6年たってそれぞれ状況が変わっているので、ワークショップで同じ役をやっても凄く違和感があったんです。そのうちに同じキャストで6年後の話をやったら面白いなと思いつきました。AV業界も大きく状況が変わっているということも踏まえると、それもいいなって。そんなときに、内田慈さんがやっていたカスミっていう役のモデルになったロリ系のAV女優がテレビで“30歳を期に復活”っていうインタビューに答えていたんです。本人とも会ったんですけど、いきなりセクシー熟女路線にキャラを変更しようとしていて、それに凄くざわつきました。もう会っちゃったからには書くしかないと思いまして、この作品には不可欠な内田さんと安藤玉恵さんにお話したら、忙しい中OKをいただきまして実現しました」

 ペヤンヌマキが一貫して描いてきたのは「女性が集団化したときに浮かび上がる、女のいやらしい人間関係」という。
「もともと女の集団の中にいると居心地が悪いんです。思春期のころから集団の中でどう立ち居振る舞おうとか、どの集団に属そうとか、そういうことを考えさせられていましたので」
 昔から女の集団のなかには身を置かなかった?
「結構自分を殺して従っているときもありました。イケてるグループに所属するか、イケてないグループでのびのび生きるかとか(笑)、いろいろな方法があるじゃないですか」

 男の世界にもあるが女の世界のほうが激しそう。
「パッと見で、“この人より勝っているか負けているか”って気にするじゃないですか、男も女も。でも女の場合、その基準がはっきりしない。女は自分を正当化するために、“顔は劣っているけどこの部分は持っているんで自分のほうが勝っている”とか思い込もうとしたり、“あの人はモテるかもしれないけど、モテても結婚してなかったら意味ないよね”とか」

 こういう話を見る側の女性はどう受け止めているのか?
「共感してくれる女性のリピーターは多いようです。男性のほうは共感じゃなくて、女性のそんな部分は見たくないというか、その場にいていたたまれなくなって帰りたくなったとか言う人がいますね。女からしたら、これ普通だよねって感じなのに」

 毎回いえることなのだが、キャストは絶妙だ。
「今回はキャスティングが凄くうまくいったなと思っています。安藤さんと内田さんはまず絶対必要。そのうえで内田さんの役が年を取って、脅威に思うというかうらやましがる、若い、昔の自分に似たような、ブリッ子キャラの可愛い子というのが必要だなと思って、それで松本まりかさんをキャスティングしました」

 稽古場はまさに女の集団。
「微妙なパワーバランスで成り立っていると思います。いろいろ牽制しあったりというのもあります。劇団だと、その中でのだいたいのヒエラルキーがあるから、それに従っていれば安心するじゃないですか。毎回別々のところから人を集めているので、今回はどういうパワーバランスになるのかということが分かるまでの期間が難しいんですよね」

 女優という、女の中でも個性の強い集団をまとめ上げるのは大変だ。
「ブス会*では一番最初に女のキャストだけの顔合わせをやるんです。女子会みたいな感じで飲みに行くといった形で。そこでの人間関係がまず面白い。今回は安藤さんがお母さんなので、夜飲めないということで、カラオケボックスの女子会コースというのでやったんです。真っ昼間からカラオケの個室で3時間。個室だからみんなさらに開放的で、下ネタや店員が来たらぎょっとするような話が飛び交っていました。みんなに許可を取ったうえで、それを毎回ビデオで撮って、参考にしています」

 なんでAV監督を?
「もともと演劇をやっていたんですが、ポツドールにいたときに“AVって面白そうだ”っていう空気が周りにあったんです。AV自体を見る機会はなかったんですが、たまたま同じ時期にAV監督の平野勝之監督が撮った『由美香』や『流れ者図鑑 さまよえる全ての人々へ』、バクシーシ山下さんの『セックス障害者たち』といった映画や本に出会ったんです。それが物凄く面白くて。もともと人間に興味があったんですが、人間が描かれていたところに興味がひかれて、“AV業界をのぞき見したいな”って思ったんですね。AVを監督したいというよりは。いろんな人間が見られそう、みたいな」
 ここまで演劇的なファンタジックをそぎ落とし、ドキュメンタリータッチで描き出す女性のクリエイターは演劇界ではそうはいない。

「AVの初期のころに平野さんのドキュメンタリーのAVの現場についていたので、そういう部分が今の演劇のスタイルに反映されているんだと思うんです。作っているのはドキュメンタリーではないんですけど、本人に取材してそこから出てきたものを脚本に反映させるという点ではAVでやってきたことが出ているんだと思います」
(本紙・本吉英人)

ブス会*『女のみち2012』
【日時】10月11日(木)〜14日(日)
【会場】ザ・スズナリ(下北沢)
【料金】一般シート(指定席前売4200円、当日4500円/ブスシート(自由席・1〜3列目限定)前売4200円、当日4500円
【問い合わせ】ブス会(TEL:080-4662-3575=10〜20時〔HP〕http://busukai.com/
【作・演出】ペヤンヌマキ
【出演】安藤玉恵、内田慈、もたい陽子、高野ゆらこ(毛皮族)、松本まりか/尾倉ケント、仗桐安 ※当日券は全ステージ開演の45分前より販売予定