ニュースの焦点 iPS細胞開発の京大・山中教授にノーベル医学・生理学賞
スウェーデンのカロリンスカ研究所は8日、2012年のノーベル医学・生理学賞を、あらゆる細胞に分化する能力があるiPS細胞(人工多能性幹細胞)を開発した京都大の山中伸弥教授(50)ら2氏に授与すると発表した。患者自身の細胞を移植して病気やけがを治療する再生医療への道を開いた功績が評価された。
日本人のノーベル賞受賞は2年ぶりで、米国籍の南部陽一郎氏を含め計19人。医学・生理学賞は1987年の利根川進氏以来、2人目の快挙となった。
iPS細胞は、あらゆる細胞に分化する能力を持つ万能細胞の一種。これを基に神経や肝臓、心臓などの細胞を作製し、病気や事故で機能を失った患者の臓器などに移植することで、脊髄損傷やパーキンソン病などを治療する再生医療の実現が期待されている。研究はまだ安全性評価の段階で、実際に患者に使われたケースはない。医療分野のノーベル賞は広く実用化した段階で授与されるのが通例で、極めて異例のスピード受賞となった。
山中教授が開発したのは、皮膚などのありふれた体細胞から、受精卵のような万能性を持つ細胞を人工的に作り出す技術だ。細胞分化の時間の流れを逆向きに戻し、最初の状態にリセット(初期化)する方法ともいえる。
万能細胞は心臓や肝臓、神経、血液など、あらゆる細胞を作ることができる。目的の細胞を作製して患者に移植すれば病気になった臓器や組織を「再生」でき、現在の臓器移植に替わる画期的な治療法につながると期待されてきた。
しかし、1980年代から研究されてきた万能細胞の一種、ES細胞(胚性幹細胞)は初期の受精卵の胚から取り出すため、生命の萌芽である受精卵を壊すという倫理的な問題があり、これが臨床応用への厚い壁となっていた。
これに対してiPS細胞は受精卵を使わず、皮膚などの体細胞から作るため倫理的な問題を回避できる。また他人の受精卵を使うES細胞は移植後に拒絶反応が起きるが、患者自身の細胞でiPS細胞を作れば拒絶反応も防げる。
iPS細胞はES細胞と同等の能力を持つ一方で、多くの課題を克服できる利点があり、再生医療の“切り札”として世界的に注目されている。