SPECIAL INTERVIEW 山田孝之
アメリカのニューヨーク・アジア映画祭のオープニング作品に選ばれ、主演・山田孝之が日本人初のライジング・スター・アワードを受賞するなど、高い評価を得た石橋義正監督の話題作がついに日本“逆輸入”公開。山田が演じた“完全別人”の一人三役がすごすぎる!
「台本を見たときはなんだこりゃという感じでしたね(笑)。こんな映画は見たことがなかったし、それだけに、大変そうだけどやってみたいと思ったんです」
主演・山田孝之が演じるのは、神秘的な美女に恋をする子どものような外見の男性“オブレネリ ブレネリギャー”、草食系男子の悩みを一刀両断する青春相談員“熊谷ベッソン”、何者かにさらわれた恋人を取り戻すため、現代劇、西部劇、時代劇をわたり歩く浪人“タモン”。
「台本を読んだ段階で、これはもう普段している“役を作る作業”とは全く違ったものになるとは思っていました。何より3役を演じるというのが大変だろうなと。そして実際、大変でした(笑)」
確かに、ベッソンではジェームス・ブラウンばりのダンスシーンがあるし、タモンは長回しの立ち回りがあるし…。
「3役それぞれに大変なことがあったというより、1つの映画で3役やるということが大変だったんです。撮影は、ベッソン、オブレネリ、タモンと順に行ったんですが、ベッソンを演じているときもオブレネリとタモンのことを考えなければならないし、オブレネリをやっているときも、終わったベッソンと、これから演じるタモンのことを常に意識してなきゃいけない。監督は“ここはこういう場面なのでこういう表情で”としっかり指示をくれるんですが、それを単にやるのは誰でもできる。それに説得力を持たせるために、それぞれの内面を作らなきゃいけないんですね。単純にオブレネリの撮影だからオブレネリだけ作ればいいというわけじゃなく、1つのシーン、1つのカットごとに、ベッソンだったらこうだろう、タモンだったらこうかな、と常にそれぞれの違いを意識して3つの役のバランスを考えながら、その都度、役に入ったり抜けたりをするので、作業が3倍になるんです。しかも、すべてを見比べてうまくバランスをとるためには、いちいち役から抜けたら客観的な自分がいないといけない。カメラが回っている間は100%オブレネリに徹していればいいんですけど、そこから出た時には、自分が3役とも偏りなく見る必要がある。結局、この作品を撮影している間は、3役プラス自分という4つの人格を保っていなければいけなくて。しかも厳密に言うと、オブレネリとタモンの間で『十三人の刺客』もやったので、あの期間は5つの人格が…(笑)。しばらく“1人何役”はやりたくないですね(笑)。1つの作品が終わってすぐ新しい役を演じるというのはままあることなので、それと変わらないだろうと思っていたんですけど、1人3役はまったく違うと今回やってみてよく分かりました」
日本人初のライジング・スター賞を受賞したニューヨーク・アジア映画祭ではこんなエピソードも…。
「現地での上映時にティーチインをしたんですが、司会の方が“この3人は全部、山田さんが演じていたことに気づいていましたか?”と言ったら、観客は“え?”って(笑)」
『闇金ウシジマくん』、ドラマ『勇者ヨシヒコと悪霊の鍵』『その夜の侍』など今年は山田のカメレオンぶりを改めて感じさせる年だった。そんなに出演作があったっけと改めて気づく人もいるのでは。それは凝り固まったイメージを持たない俳優・山田の才能とひたむきさゆえだ。
「いつも役を作るうえでは同じことを意識してます。声のトーンや大きさ、セリフの間の取り方、リアクションのスピード、姿勢、重心、表情まで全部、台本を読んでる間に汲み取って自分の中で決めていくんです。それを現場で一度やってみると納得して演じることができるんです」
今回、名匠・鈴木清順との共演シーンも見どころ。
「実は僕、恥ずかしいことに日本映画を全然見てこなかったので、鈴木清順さんを存じ上げてなかったんです。でもそれでむしろ助かりました」
実は、山田扮するタモンが鈴木演じる老彫師にツッコミを入れるという衝撃シーンがあるのだ。
「後から、どれだけの偉業を成し遂げてきた人なのかを知りましたけど、逆に知らなくてよかったなと思いましたね。台本通り“バッチン”っていけましたから…。清順さんが一瞬ちょっと固まったのでひやりとしましたけど」
今、本当に面白い役ばかりをやれている、と充実の笑みを見せる。山田がやるから面白いのか、山田だから面白い役が集まるのか…。
「無難というのもあるんじゃないですか(笑)。あとは、アイツならこの番手でも受けるだろう、とか。一時期、それを如実に感じたときがありましたよ。“これ、とりあえずで僕に話振ったでしょ”みたいな(笑)。僕自身はあまり主演とか番手を気にしないので。それを気にして仕事を選んでいると役者として学ぶ機会も減るし、息の長い役者に育たないんじゃないかと思うんです。若い俳優たちにはそういうことも伝えたいんですよね。深夜ドラマに出てても、6シーンくらいしかない作品に出てても(笑)いい役が来るときは来るから、と。逆にそこでしか身に着けられないスキルを得ておけば、必ず他のところで生かせる。いろんな役、いろんな番手、いろんな場所でやっていくことが役者を育てると思うんです。僕も今、まさに自分を育てている最中です」
最期に、読者にメッセージを!
「楽しもうと思えばめちゃめちゃ楽しめる作品だと思うんですよ。視覚的なもの、衣装やメイクの面白さ、美術や背景の凝り具合も見ていて飽きないし、とんでもなくくだらなかったりシュールな笑いもあるし。なんなら見なくてもいいんですが(笑)、こんな面白い映画を見なくていいですか、と言いたい作品です」
こんなにすごい山田孝之の一人3役、見なくて平気!? (本紙・秋吉布由子)
監督:石橋義正 出演:山田孝之 マイコ、石橋杏奈他/1時間30分/ディーライツ、カズモ配給/11月24日よりシネクイント他にて公開
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