庭劇団ペニノ主宰・タニノクロウ「記憶がよみがえってくる感覚が持てる」 最新作
渋谷の片隅に、ごく限られた人しか入れない秘密の空間があって、そこでは夜な夜な不思議な芝居が上演されていた…。そのオーナーの名は庭劇団ペニノの主宰・タニノクロウ……。
庭劇団ペニノは渋谷のマンションの一部屋に“はこぶね”という名のアトリエを持ち、そこでさまざまな作品を生み出してきた。お客はせいぜい1公演25人。その秘密の劇場は今年4月に取り壊されてしまうという。そもそも「はこぶね」ができたきっかけは?
「劇場化というかアトリエにしようと思ったのが約10年前。そのころはいろいろな劇場でやっていたんですが、まず劇場を借りる手続きが大変。いや、さほど大変でもないんですが、面倒くさい。お金のことも気にしなければいけないし」
演劇は「どこでやるか」ということもとても大事。
「それも大きいです。大きさもそうですが、客席との距離感というものですごく変わってくる。僕の感覚ではお客さんとの距離が近ければ近いほど、何をやったっていいって思っているんですよ。クソくだらないことでも許されると思っている。あと演出をする時、どんな狭い劇場でもある程度見回さなければいけない。あっち見たりこっち見たり、というのは疲れるんですよ(笑)。やっているうちに自分で何がやりたいのか分からなくなってくる」
小さいところだといろんなものが削ぎ落とされて、本質が見えやすい。
「これは創作過程の問題でもあって、大きいところでも隅々まで把握できる時間があればいいんですが、丸々3カ月貸してくれるところなんてないじゃないですか」
そして今回は4月の公演に向け2月から稽古場入り。
「何をやるか全く決めずに来て、最初のうちはここに座りながら、何しようかなって考えていました。なるべく考えずに行って、その場で思いついたことが大切なんだろうなって思っているんです」
稽古場には独創的なセットと小道具。
「客席は50〜60くらい。あんまりたくさんの人に見せたくない(笑)。はこぶねが1.5倍になったくらいの感じなんですけど、それくらいのギュっと凝縮した雰囲気で楽しめたほうがいい」
公演期間は4月12〜29日と長め。
「はこぶねを作った理由でもあるんですが、もし時間とある程度の覚悟があれば、1回の公演のお客さんが少なくてもロングランをやるほうが役者にとっても作品にとっても絶対にいい」
はこぶねでは今まで『小さなリンボのレストラン』『苛々する大人の絵本』『誰も知らない貴方の部屋』といった作品が制作されてきた。いずれも主人公は一人の男で、その人の夢の世界。
「僕、ファンタジーが好きなんです。楽しくて幸福感があってっていう。まあこれをファンタジーと呼んでいいのかどうかは別として、いつもそのつもりで作っています」
そして今回の作品はその連作の流れをくむ作品。
「はこぶねの作品って一番最初にわけの分からないものをバンと見せられて、そこからスタートするんですが、今回は現実の世界から主人公が夢の世界に入っていく導入が描かれていて、それから妄想の世界のようなものが展開されていくという感じになると思います。ちょっと物語性が出ています。かなり細かい謎というか、キーワードや舞台美術的な謎などを散在させながらも、すごくシンプルな話に仕上げているんで、何回見に来ても面白いんじゃないかと思います。まあ、くだらないところではあるかもしれませんが、いろいろな引っ掛かりがどんどん解消されていくような作品になると思うので、今までわけが分からなかったという感想がたくさんあったんですが、そういう人たちが“あ、そういう意味だったんだ”というふうに記憶がよみがえってくる感覚が持てると思います」
今後もはこぶねテイストの作品は続けていく?
「はっきりした展望はまだないんですが、アトリエを持ちたいと思っています。好きなタイミングで公演もできますし。でも勢いでこんなセット作っちゃって。捨てるわけにもいかないので、じゃあこの形式でやり続けるのもありかなっていう気持ちもちょっとあるんですけどね」
(本紙・本吉英人)