とろけるような舌のたび

『英国一家、日本を食べる』マイケル・ブース 訳・寺西のぶ子

 イギリス人のトラベルジャーナリストであり、フードジャーナリストによる日本全国食紀行。ただの食いしん坊と謙遜するが、著者はパリの有名料理学校ル・コルドン・ブルーにおける1年間の修行とミシュラン三ツ星レストラン、ジョエル・ロブションの“ラテリエ”での経験をつづった“Sacre Cordon Bleu”がBBCとTime Outで週刊ベストセラーになったほどの食通だ。そんな彼が家族4人で北海道から沖縄まで日本全国を3カ月で周り、できるだけ多くの日本料理を食べる旅に出たのだ。東京では新宿の思い出横丁から、高級な天ぷら店、そして相撲部屋のちゃんこから会員でなければ入れない銀座の割烹(会員の服部幸應に招待された)まで、日本人でもなかなか体験できないお店に行き、北海道ではカニやラーメン、大阪ではお好み焼きなど、まさに日本を食べ尽くす。その食べっぷりと飽くなき追求心には驚かされるが、この本は食のことだけではなく、ひとつのイギリス人家族の日本紀行になっているところも楽しい。間違った認識や思い込み、ところどころに散りばめられたシニカルな表現はご愛嬌として、食べることが大好きな人は、普段何も考えずに食べている日本食というものを、改めて考えるきっかけとなるのでは。



『英国一家、日本を食べる』【著者】マイケル・ブース/訳・寺西のぶ子【定価】1900円(税別)【発行】亜紀書房