INTERVIEW 熊谷和徳 “THE ONE”へのタップ
熊谷和徳が再び日本でタップを踏む。17日から3日間、公演「DANCE TO THE ONE」をBunkamura オーチャードホールで行う。昨年、タップダンサーとしては初めてニューヨークに国費留学。それを経ての“凱旋公演”だ。幕開けを目前に控え、「今のベストを見せる、勝負だと思う」と、意気込む。
「ニューヨークでの1年は、とても充実していました」。熊谷は、そう言った。
一昨年の11月、再び渡米した。19歳のとき、大学進学とタップのために留学。「日本のグレゴリー・ハインズ」と現地メディアに絶賛され、本格的に活動を始めようとしたとき、ビザが整わず無念の帰国。いつかまたニューヨークで踊りたいという思いを抱きながら日本で活動し、評価もされた。そして、夢が叶ったのだから、充実しないわけがない。
留学を決めたのは「1度リセットしたい」という気持ちがあった。
「発表する場が数カ月に1度ちゃんとあって、そこに向けて作品を作る作業に追われる。ありがたいことですけど、毎月それを“こなしていく”感じで、だんだん考えなくてもやることが決まってきて……。クリエイティビティではなくて、仕事になっていく感じが嫌でした。そんななかで震災があって、いろいろ考えて、文化庁の制度(新進芸術家海外研修員)を知って、応募したんです。留学にはメリットもデメリットもありましたが、これまで積み上げてきたものを一度リセットしよう、と」
ニューヨークでは、タップダンスやその文化を継承し、伝え、発展させる「アメリカン・タップ・ダンス・ファンデーション」にアーティスト・イン・レジデンスとして所属。「これができる」「あれもやりたい」。アイデアを次々に出すも実現しない日々に、「イライラしていたときもあった」と、振り返る。
「最初は、しんどかったんですよ。創作する時間が長いということは、それに向き合う時間が自然と多くなる。本当に自分がやりたいことはなにかという問題をずっと突きつけられる。それって恐怖です」
「教える」ということにも時間を費やした。時には、大陸を横断し、ロサンゼルスやアトランタでショーに出演しつつ、教えたこともある。
「行ってから教えてほしいって伝えられたので、びっくりはしたんですが、教えることで、発見というか、改めて気づかされたこともあります。タップの文化を継承し、伝えていくことも含めてタップダンサーであるってこと。パフォーマーはパフォーマーとして集中したくなるものだし、僕も日本にいたとしたらそんなに教えなかったと思います。でも、アメリカでは教えるというところまでやって当然なんです」
教えるといっても、マニュアルなどない。タップダンサーはそれぞれのメソッドを生み出して、その技術を伝えていくのだそうだ。昔から「教えることが一番の勉強法」というが、それはタップダンスにも通じるよう。
「自分だけで練習している人たちがいます。自分もそういうタイプで1人で練習する時間をとても大切にしていたし、否定もしないけれど、それだと技術でも表現者としても開かれていかないんですよね。人前に立って踊ることもそうですけど、それ以前にも、人と関わることでタップにすごく意味が出てくる。タップはコミュニケーション、それが本質っていうこと、人と関わりあうことで何かが生まれてくることに改めて気づきました。生徒たちの反応、お客さんからのレスポンスであるとか何かが生まれなきゃ意味がない、ひとり自分だけ研ぎ澄ましていっても意味がない」
こうした「気づき」は、熊谷にとって光明にもなったよう。さまざまな人々との触れ合いを通して「自分のタップを踊ればいい」「エンジョイすればいい」、そう思えるようになった。
話を戻そう。今回の見どころをたずねると、「ダンスをみて聴いてほしい」。
「ダンス公演において多くの場合、演出を見るのに慣れているような気がします。僕はダンス自体を見て、そして音を聴いてもらいたい、そしてそこで観る人にさまざまな情景を想像してほしいんです。例えば、大自然のなかに一人でいるとき、風景を見ていてふと涙が出たりすることがあります。それは、景色そのもののもつパワーが見る人自身のストーリーに重なっさまざまな情景が心の中に映し出される気がします。こうやってここまでたどり着いた、こう生きてきたんだっていう自分の景色と目の前の風景とが一体化することで、心が動かされます。僕のパフォーマンスを通してそれぞれの人生のストーリーを感じてもらえたら。それが、僕にとってみんなとつながるっていうことなんです」
凱旋公演が終えたら、再び渡米する。今後はニューヨークに拠点を置き、世界でタップを踏む。すでにヨーロッパでのパフォーマンスの予定もあるという。「やりたいと思うことをできるうちにやりたいだけなんです」。タップダンサー、熊谷和徳。世界に向けて足を鳴らす。
(TOKYO HEADLINE・酒井紫野)
『DANCE TO THE ONEA Tap Dancer’s Journey』
【日程】1月17日(金)19時30分開演、1月18日(土)14時開演、1月19日(日)14時開演
【会場】Bunkamura オーチャードホール
【料金】S席8500円 A席6000円 B席4500円 C席3000円 (すべて税込)※未就学児童入場不可
【問い合わせ】チケットスペース 03-3234-9999