SPECIAL INTERVIEW 宮藤官九郎 × 河原雅彦
生瀬勝久、池田成志、古田新太という個性的すぎる3人の役者の「今一番やりたい芝居を自分たちの手で上演したい」という思いから企画された「ねずみの三銃士」の5年ぶり3回目の公演『万獣こわい』が3月15日から渋谷のPARCO劇場で開幕する。過去2回同様、今回も作と演出を担当するのは宮藤官九郎と河原雅彦だ。
3月15日から上演開始
きれいに5年に1回のペースで3回目の公演となる。
宮藤(以下、宮)「まず3人が揃わなきゃいけないじゃないですか。僕の場合は書くだけなんで、わりとどうにでもなるんですけど、3人と(演出の)河原さんのスケジュールもあるから、本当にできるのかという部分もあるんですが。というか3本もやると思ってました?」
河原(以下、河)「いやいや。僕も宮藤さんも、言うなれば下請けみたいなものじゃないですか」
宮「はい、下請け」
河「いや、とってもありがたい下請けなんですけど」
宮「そう、ありがたいですけどね」
河「一人ずつでも十二分に面白い先輩たちが、3人揃って舞台に立つ企画ですから。後輩としては光栄な思いです。こんなに続くとは思ってなかったけど」
出てくるだけで面白い3人だ。
宮「いつもキャスティングの話ばかりしている印象があるんですよね。1回目も、用事があって古田さんや成志さんと会ったりしていると“誰がいい?”っていう話ばっかり。決まると“じゃあよろしく”みたいな」
河「これまでは古田さん主導で決まることも多かった気が。前回、どなたを呼ぼうかっていうときに、古田さんから三田佳子さんのお名前が出たんです。」
演出家はとにかく大変そう。
河「人間ってうまくできていて、みんながいろいろ思い出してくれるんですけど、僕自身はほとんど記憶がないんですよね」
宮「(笑)」
河「今回ものすごい偶然で、お隣の稽古場に三田さんが別のお芝居でいらしてたんです。それで三田さんが、僕らの稽古場にご挨拶に来て下さったのですが、みんな久しぶりにスクッて立ってましたね(笑)」
宮「河原さん、顔見るなり言われてましたよね“この人にいじめられたのよ”って(笑)」
河「いじめてないよ〜(笑)」
宮「普通に演出しただけなのに」
製作発表会見でも小池栄子が「河原さんの演出はとても厳しいときいています。その千本ノックにどこまで耐えられるか」と語った。河原には怖い演出家というイメージがあるようだ。
河「いやいや、人の噂ってホントに怖いですね。いじめ、ちゃダメですよ(笑)。いやいじめてないし(笑)」
厳しいことは厳しい?
河「いや、そんなことは…」
宮「そういう演出家が少なくなってきているから、なんていうんだろう、強面は引き継いでほしいですよね(笑)」
河「いやいや。でも多分、宮藤さんも覚えがあると思うんですけど、演出をしてる時、ついつい顔に出ちゃうんですよ。それは気を付けないと」
宮「隠せないですからね」
河「ちょっとでもうまくいかないと、うわ〜っとなったり、うつむいたりとか、そういうところはよく演出助手に注意されるんです。でもそれくらい1回1回真剣に見ているということだととらえていただきたいですね。稽古場でも常に面白いものを見たいですから」
宮「演出家って見ている側ではあるんですが、同時に見られてもいるんですよね。自分のことには気がつかない」
河「正直に反応してしまうので、それが怖いとか感じが悪く見えるというふうになっちゃう。もういい年だからホント気を付けようとは思ってます」
この3人に書く、演出をするプレッシャーは?
宮「書く側はですね、配役の打ち合わせをあえてせずに書き始めるんです。『鈍獣』がそうだったんですが、僕が考えていたキャストを河原さんは全部変えたんです。なのでもうこれは打ち合わせをしないでやろうということになった。その前回は3人全員が作家という役だったので、それはやりやすかった。今回は僕の思っていたキャスティングとはやっぱり違っているんですよね。生瀬さんと古田さんはどっちでもいけるかな? というか逆かな? とは思っていて。それと成志さんと小松さんが逆かな?って思っていたら、それが全部僕が思っていたのと真逆だった。それは書く側にとっては楽しいことなんですね」
3人には特に意見も聞かず、2人の間で決める。
河「このユニットの特別なところだと思うんですが、僕は配役をあまり奇をてらって変えようとかそういうことは思ってなくて、僕なりに読んで、こうだろうというのをやっていただいているんですけれども、三銃士はホントに誰がどの役をやっても、もうそれぞれの味で面白くできる俳優さんだし、肩の力が抜けていて、どんな要求にでもさらっと応えてくれるスタンスでいてくれている。そんなの他の現場では、とてもじゃないけど望めないことなんです」
緊張よりもワクワク感
役者と作品のインパクトが強すぎて、10年、5年という月日を感じない。ちなみに2人の10年前とは?
宮「僕、外部に脚本を書き下ろしたのはこの作品が初めてです」
大人計画ではすでに結構大きな劇場でも公演を打っていた。
宮「大人計画はやっていたし、自分のプロデュース公演も毎年やっていましたけども、まるまる1本書いて演出してもらったのは多分初めて。河原さんはもう大きい作品を演出してましたよね」
河「でも、パルコ劇場は初めてだった。宮藤さんとは知り合って長かったし、作品も大好きだったので、宮藤さんの脚本を演出できるというのがすごく楽しくて、緊張よりもワクワク感しかなかったですね」
もともと親しい間柄。
宮「雑誌で一緒に連載もしていたし、チェリーボンバーズというユニットに短い作品を書き下ろして、河原さんが演出をするということはやってましたしね」
河「あの芝居も何も考えず引き受けて、すごい楽しかった(笑)。ねずみの三銃士もあまり深いことを考えずに、楽しいって気持ちの延長でやってましたから。あの3人が役者主導で舞台を作るっていう企画に呼んでもらえたんだから、僕らも遠慮せずに好きなことをやったほうがいいんだろうって思ってましたね」
若い2人にやりやすい環境を作ってくれていた?
宮「あんまり考えてはいなかったと思います。でも、今思い出したんですけど、チェリーボンバーズはスズナリに本物のタクシーを入れて、女4人中3人がおっさん役というとても自由なものでしたよね。そう思うと、河原さんとやるときってふだんよりも自由な発想でやっているような気がします。ハードルも高いんですけど、その分誰もやっていないような独特な作品になっているのかなって思います」
河「基本的に、宮藤さんも僕もこの3人には、ある程度丸投げでいいと思っているんです。それはこの先輩たちが稽古場でいろいろ膨らませるということができる人たちだからなんですけど」
演出家としても大きな影響を受けていたようだ。
河「いい俳優さんが演じていると他の俳優さんたちもいい芝居になったりするものなんですよね。舞台上で演出しているとでもいいますか。演出家としてはすごく楽な面もあったりするんです。演出家としては、この人たちが舞台に立っていてくれるだけで、ものすごくメリットを感じたりしてますから」
3人を見てゲストも追いつかなきゃ、と上がっていく感じ?
河「点数制ではないから、らしく居られれば十分魅力的だと思います。それぞれの個性みたいなものをリラックスして発揮してくれればいい。どんなお芝居でも先輩方は受け止めてくれますから」
宮「本読みを聞いていて、成立しているし、間違ってはいないから面白い作品になりそうだなと思いました。別にみんながみんなこの3人みたいに、っていうわけではないし、それぞれがそれぞれの役の中で立ってもらえればいいいんじゃないかと僕は思いますけど」
小池と夏帆のイメージは?
河「すごい魅力的。お芝居的に言ったらすごくできる人たちですよね。小池さんはパンチもあるし、繊細な機微も出せるし、ホントにいい女優さんだと思います。夏帆さんも園子温さんのドラマ『みんな!エスパーだよ!』では、あの若さで振り切れるお芝居をばーんとやれていて、ああ見えて、とっても腹がくくれる女優さんじゃないかと思います」
もう一人のゲスト、小松和重は多くの舞台で安定した面白さを発揮する。
河「ホント、味のある、ホッとできる役者さんですよね」
小松とは?
河「役者として1回共演したことがあります。でも演出家としては初めて」
河原は昨年末に断食を敢行している。
河「ええ、先月に」
宮「え? なんで? 知らなかった」
河「断食施設というものがあるんですよ。デトックス施設っていうんですけど。1週間ほどまとまった休みが取れたんで思いつきで。良かったですよ」
宮「どこに行ってたんですか?」
河「伊豆高原。リゾート断食みたいな感じ」
宮「へー、何にも食べちゃいけないの?」
河「3日間は食べなかったですね。4日目から湯呑1杯の重湯からちょっとずつ普通食にして、ご褒美ブランチというのが最後に出て、普通食で終わるんですけど」
宮「ふーん」
河「この公演があるからというわけではないんですけど、頭がすごくすっきりしました」
演出家としていろいろ経験しなきゃ、というわけでは?
河「いやいやもう、全くそういうものはなくて、ホントに思いつきで行ったから、当日はサティアンみたいなヤツだったらどうしようって」
宮「(笑)行ってから?」
河「空腹時が一番洗脳されやすいらしいんですよね。ものを食べない、空腹というのが一番思考が流されやすいという話を行く前日にジョビジョバのマギーとご飯を食べている時に聞いて怖くなっちゃって、気ばっかり張っていました」
宮「洗脳されないように」
終わって1カ月くらいに絶好調期が来るらしい。
宮「これから絶好調がくるんだ」
河「でも酒はめちゃくちゃ弱くなりました」
宮「その間飲まないんですもんね」
河「多分、血流がよくなっているんです。お酒のまわりが早くなっているから、変わらないペースで飲んでいると、この1カ月で4〜5回記憶を無くしています。だから稽古中は飲みすぎだけは気を付けようと思っています」
宮「それはよかったですね」
河「煙草もその時に一緒にやめました。続くといいな」
全国9都市で上演されるのだが、2人は仕事の都合で地方にはいけないらしい。
宮「僕は仙台とか行きたいなとは思っていて、スケジュールが空いていたら行こうかなって思っています」
河「演出家としては行きたいんですけどね。序盤は日帰りになってしまうかもしれないけど、場当たりくらいはいくかもしれないです。宮藤さんは沖縄にはいかないんですか?」
宮「い、行こうかな。どっか行きたい。でも…」
河「沖縄でばたばたしたくないからね」
宮「そうですね。できれば、お芝居じゃなく観光で行きたいですもんね(笑)」
河「前回の『印獣』では沖縄出身の上地春奈という女優さんが出てたんですよ」
宮「あーそうだ」
河「あのとき行かないのに、今回は行くんだっていう(笑)」
珍しい沖縄公演も敢行
芝居の沖縄公演ってなかなか聞かない。お客さんも東京なんかとはちょっと違うっていうイメージ。
河「僕は初めてですね。古田さんというか三銃士の人たちが行きたいって言っていたんですが、それが叶っちゃうから、この人たちは凄い。『鈍獣』のときの打ち合わせで、地方公演はどこに行くかという話が出て、三銃士がプロデューサーに、“ちょっと今新潟に電話かけてよ”みたいなことをやっていたのは覚えてます」
宮「こことここって(笑)」
河「“この時期空いてますか?”って電話してもらって。そういうことも含めて、役者3人がやりたいことをやるという企画なんです」
ではなぜ今回は沖縄に?
宮・河「多分行きたかったからでしょう」
宮「成志さんか古田さんのどっちかが」
沖縄は3回公演。
河「僕はスタッフミーティングにも出ているんですが、“旅の流れ”みたいなものってあるじゃないですか。恐らくなんですが、福岡公演を終えて、そのまま東京に戻らなければ沖縄でオフが2日くらいあるはずなんです」
宮「あ、ホントだ!(笑)」
河「そのスケジュールまで、成志さん、古田さんあたりは注視してるかも」
宮「これは絶対普通だったら1回帰る日程だけど、帰らないんだ」
河「帰らない。そうするとここでゴルフができたり泡盛飲めたり、いい沖縄になるじゃないですか」
宮「ホントだ」
では2人もなんとか福岡のラストから沖縄にかけては行きたいところだ。
宮「東京行かないで、ここに行こうかな(笑)。でも俺は……無理だな…」
3月から6月まで。これだけの長期間となると、あの3人が揃うのはやはり5年に1回か。
宮「そういえば、僕が鈍獣で岸田國士戯曲賞をもらった時に、対談で、“この先も若い作家に岸田國士戯曲賞を獲らせていくユニットにしよう”って言ってたんですよ。まあ冗談だとは思うんですけど。で、5年後また僕だったんですよ。で、今回もまた僕じゃないですか。僕が岸田國士戯曲賞獲ったの忘れちゃったんじゃないかなって(笑)」
もしくはその対談の時に思いつきで喋っていたか。
宮「もちろん感謝してますけどね。いきなり若い作家に乗り換えられても複雑なので」
河「(笑)演出家としては絶対に賞は取れない類の作品なんですよね」
宮「(笑)もらえないですね」
最後に作品の見どころを。
宮「3人はもちろんなんですが、この現場では他の作品では見られない、やってくれないようなことをやらないと許してもらえないような雰囲気があるので、小池さんと夏帆さんのそういう部分がみられるのではないかと思います」
河「ほかの芝居には絶対にない独特な後味と質感のお芝居になることは確実。劇場にわざわざ足を運ばないと見られないのが芝居のいいところなんですが、この作品はホントに刺激的だと思います。またそういうものを作らないといけないとも思っています。ぜひなんか珍しいものを体験してもらいたいですね。どうなるかは全然自分たちも分からないというか、僕自身もどうなるか楽しみです。ただ珍しいものには絶対になるような気はします」
今回は若い人にも見てもらいたいということで、U−25チケット、高校生以下チケットも用意された。でもこの作品が最初の演劇体験だったらそれはそれで大変。他の作品が面白く感じられなくなってしまうかもしれない。
河「もし影響を受けて、若い人がこれっぽい本とか書いちゃったりして、仲間内でやろうとしても、あんまり人が寄り付かないんじゃないかな、白い目で見られるだけで(笑)。でも、それもいいと思います」
宮「演劇のチケット代が高くなってきちゃったってこともありますけど、演劇は安心感がないとなかなか見てもらえない部分があると思うんです。なにか保証がないと9000円とか出せないですよね。そういう意味では安い席があるというのは、冒険させてもらうこっちにとってもいいことだと思います。ホントにこの作品には安心感は絶対にないので(笑)」
ないですか?
宮「ないでしょ。むしろ不安を保証するユニットですよ(笑)」
面白いことは間違いない。
宮「そりゃ間違いないですけど、安心感というか、いいもの見たな感というところには落ち着かない気がします」
(本紙・本吉英人)
【日時】3月15日(土)〜4月8日(火)【会場】パルコ劇場(渋谷)【料金】全席指定 8500円/U−25チケット(25歳以下対象)5000円、高校生以下チケット(高校生以下対象)3000円(ともにチケットぴあにて前売のみ取り扱い。当日指定席券引換・平日限定・要身分証明書)【問い合わせ】パルコ劇場(TEL:03-3477-5858 [HP]http://www.parco-play.com/)【作】宮藤官九郎【演出】河原雅彦【出演】生瀬勝久・池田成志・古田新太、小池栄子、夏帆、小松和重