江戸瓦版的落語案内 Rakugo guidance of TOKYOHEADLINE
貧乏人の八五郎、長屋に引っ越したはいいが、部屋に置く家財道具が一切ない。そこで絵かきの先生にお願いして、壁に紙を張り、そこに家具の絵を書いてもらうことにした。「まずは床の間を描いてください。そうそう、うまいもんですね。で、その脇に金庫をお願いします。ちょっと扉を開けて、そこからちょろっと札束が見える感じで」。ずっと欲しかったものを、細かい注文をあれこれつける八五郎。「次は…箪笥をお願いしますね。そして茶箪笥も。その中には洋酒の瓶を並べて、一番下には羊羹をちょこっと置きたいな。でね、長火鉢の上には鉄瓶を乗せて、お湯が沸いているように、湯気を出しておいて下さい。あと、猫。動きがあったほうがいいから、そうだなあくびをしているところをお願いします。それから、脇には脱ぎっぱなしにした着物と、長押には先祖伝来の槍を一本…」。そんな八五郎の注文に呆れながらも書き終わると、なるほど立派な座敷が完成した。その夜、八五郎が寝ているところに、泥棒が忍び込む。ところがこの泥棒が近眼ときた。「長火鉢に鉄瓶がかかったままで、無用心だね。おっ、金庫の扉が開いて、札束が飛び出てるよ。どれどれ…」。手を伸ばすも、もちろんのこと札束はつかめない。「あれ?なんだ?箪笥の引き出しも開かないよ。おや、猫もずっとあくびをしたままだ。こりゃ、全部絵じゃないか!」。落胆するも、相手が“あるつもり”なら、せめてこっちも“盗ったつもり”になろうと、仕事を始めた。「一番下の引き出しを開けたつもり。大きな風呂敷を広げたつもり。風呂敷に引き出しの中の着物を入れたつもり。金庫の札束を取ったつもり。それを風呂敷に入れたつもり」。ひと通り盗ったつもりになると、「全部まとめて風呂敷を縛ったつもり。そしてそれを背負ったつもり」。そんな泥棒の気配に気付き八五郎が目を覚ました。しばらく様子を見ていたが「ずいぶんおかしな泥棒だね。そちらがそうくるなら、こちらも」と布団を跳ね上げたつもりになると「長押にかかっている槍を取りりゅうりゅうとしごいたつもり。そしてそれを泥棒の脇腹めがけ、ブスっと突き刺したつもり!」。泥棒、脇腹を押さえ、「イテテテ。血がだくだくと出たつもり」