SPECIAL INTERVIEW 小林涼子
映画やドラマに出演するたびに、ぐいっと引きつけられる演技で多くの視聴者を魅了している、小林涼子。最新出演作『大人ドロップ』でもキラリと光り、心をぎゅっとつかむ演技を見せている。この作品で、ピリオドを打つことができたという「あること」とは? 本人にインタビューした。
初対面の人は誰でも驚くほどの小さな顔と大きな瞳。次の役のために生まれっぱなしの状態にしているという、さらりとした黒髪。目に飛び込んできた小林涼子には、「凛とした」という形容がぴったりだった。
「なんか、地味、ですよね」と、本人。
「次の役のために、前髪を作って、色もほぼ自分の髪の色です。ああ、普通っぽいなって思います(笑)。もともと大人顔ではないので、お化粧もしないで、スニーカーを履いたりすると、本当に幼い印象になっちゃうんです! だから、今日も大振りのイヤリングをしてみました」
小さなころから華やかな世界に身を置いてきた。活動は、モデルから演技のフィールドへと少しずつ変化。演技に本腰を入れ始めてから10年ほど経つ。ただ、「女優になりたい!と思って女優になったわけではないんです……」と、声が小さくなる。
「私、現場にいることが好きなんです。作品を作りたいという気持ちはあるんですけど、女優さんになろうという気持ちではなくて。純粋に映画に携われるってことがうれしいんです。だから、この『大人ドロップ』のお話をいただいた時も、単純にうれしくて。映画は久しぶりだったということもあるんですけど、映画っていいなって、一日が終わると明日現場に行くのが楽しみでした」
『大人ドロップ』は、青春群像劇だ。子供でもないし大人でもないけれど、確実に大人へと変化していかねばならないという、モヤモヤした高校生の姿をナチュラルに描く。いわゆる青春時代を通り過ぎた大人も、その真っただ中にいる若者たちも、自分と重ね合わせられる。
「登場人物たちは、すごくもがいています。ああじゃない、こうじゃないって、溺れそうになるんだけれども、必死に前に向かって行く。きっと、その最中にいたなら、いっぱいいっぱいだと思いますけど、私自身はそういう時期を通り過ぎてしまったところもあって、すごく眩しいし、羨ましくもなるし……その反面あの時に戻りたくないとも思います(笑)。苦さとキラキラした貴重な時間がぎゅっと詰まっているんです」
演じたハルは、大人になることを急ぐ女の子。ぎゅっと抱きしめたくなるような存在だ。
「とても繊細だけど、ズバッといっちゃう大胆な部分もある。脆いけど強い、そんな矛盾を抱えている女の子。大丈夫そうにみえて、一番大丈夫じゃない子なんです。演じるうえでは、大胆なところも、モヤモヤしている姿も全部いじらしく愛せちゃう。そんな、女の子になったらいいなと思っていました。ただ、いろいろ気を使って演じていたというよりも、のびのびとしていたら、自然にハルちゃんとして息をしていた感じです。現場の環境にも恵まれていて、共演者はみんな、いい意味でマイペースだから心地いい。干渉はしないけど協力はする心地いい4人組。アンバランスでいいバランスでした。そんななかで“ハル”って呼ばれればハルになるみたいな。なんていうのか、無茶がなかったです」
友情、恋愛、ちょっとした誤解から生まれるいざこざにモヤモヤ——。公開を控えた今も、充実感が残る。「制服はこれで最後でもいいなって思えるぐらい、この作品のおかげで高校生活をやりきった感がある」と、本人はキラキラした瞳をさらに輝かせる。
「自分がやれなかった高校生活を、きちんと終わらせられた作品だなって思っているんです。高校時代の私は、仕事もしていたし、本当にアップアップしていました。仕事と勉強で溺れそうになりながらの生活で、モヤモヤする時間もなくて。正しく“モヤモヤ”できなかったんです。自分のなかでずっと、たくさんの青春時代のやり残しがあって、制服を着るたびに、“宿題、間違っているよ”って戻されるみたいな感覚でした。でも、この作品を通して、ハルちゃんを通して、ちゃんとモヤモヤしてスッキリした(笑)。私の青春ってこうなるのかなって、苦かった青春を消化できた感じがしているんです。学生時代にいい思い出を作れて、ちゃんとピリオドを打てた気がします」
青春時代に決着をつけたことで、新たな段階へと進める。ドラマ、映画、今後もたくさんの作品が控える。
「今年、25歳になるんです。ひとつの節目で、何でも来いみたいな1年。来るものは拒まず、来た球は全部打ち返していくぐらいの気持ちでやっていけたらと思っています。いろんな意味で、こうじゃなければいけないという気持ちもそぎ落とされたところもありますし、丸腰でバッターボックスに立っていく思いですね。楽しい楽しい!でやってきた10年間から、これからは知らないことを知るという怖さを知っていくときにもなると思うんです。だからこそ、今まで以上に、一つひとつの作品に真摯に向き合っていきたい。そう思っています」
いい作品を作りたい、その作品作りに関わっていたいという、小林のモノづくりへの情熱は燃え上がるばかり。その熱は、4年も通っているというガラス工芸で吹くガラスの熱にも勝るとも劣らない。その情熱を今は、主演ドラマ『鉄子の育て方』(メ〜テレ、4月7日スタート)に注ぐ。彼女はまた、新たな作品に息を吹き込む。
(本紙・酒井紫野)
監督・脚本・編集:飯塚健 出演:池松壮亮、橋本愛、小林涼子、前野朋哉 他/東宝映像事業部配給/4月4日(金)ロードショー http://otonadrop.jp/http://otonadrop.jp/