まさか!! 誤認逮捕じゃなかったとは…

 4人が誤認逮捕されたPC遠隔操作ウイルス事件が思わぬ展開を見せた。

「真犯人」を名乗るメールが16日、報道機関や弁護士などに届いた。メールでは威力業務妨害などの罪で公判中のIT関連会社元社員、片山祐輔被告(32)のパソコン(PC)をウイルス感染させ、犯人に仕立て上げたと主張していたのだが、実はこのメールは片山被告が送ったものだった。

 警視庁捜査1課はメールの内容を分析し、発信元を特定するなどして真偽を調べたのだが、片山被告が埋めたとみられるスマートフォン(高機能携帯電話)が電源が入った状態で東京・江戸川区内の河川敷で見つかり、付着物から片山被告のDNA型が検出された。片山被告が15日夕、現場周辺で不審な行動を取っているのを警視庁の捜査員が確認しており、16日午前11時半すぎにメールが届いた後に土を掘り返したところ、スマホが見つかったという。

 警視庁は3月の保釈以降、ひそかに行動確認を続けていた。

 片山被告はメールが届いた時間帯に東京地裁での公判に出廷しており、公判後の記者会見で「メールを送ることはできない」と否定したが、捜査当局は、片山被告が決められた時間に自動でメールを送信する「タイマー機能」を使い、偽装工作を図ったと判断した。

 東京地検は19日に「証拠の隠滅が認められた」として東京地裁に保釈取り消しを請求した。

 東京地裁で2月から公判が行われている片山被告は、19日に出席を予定していた東京・霞が関の司法記者クラブでの会見に姿を現さなかった。会見には主任弁護人の佐藤博史弁護士が一人で出席し、「片山さんが無実だという考えは全く揺るがない」と強調していた。

 佐藤弁護士によると、片山被告と午前10時前に記者会見について電話で打ち合わせをした後、捜査当局の動きについて報道があり、午前10時過ぎにも2回、電話でやり取りをした。被告は驚いた様子で、病院で胃の検査を受ける予定をキャンセルして弁護士事務所に向かうと言っていたが、その後、何度電話しても通じなくなったという。佐藤弁護士は、「(不審な行動をしていたとされる)15日の行動について正々堂々、説明すればよいだけのことだ」と語気を強め、片山被告がメールを送ったとする捜査当局の見方を否定していた。

 19日午前から連絡が取れなくなっていた片山被告だったが、同日午後9時半ごろに佐藤弁護士に連絡があり、「全部自分がやりました」と一連の事件への関与を認めた。16日に「真犯人」を名乗るメールを報道機関などに送ったことも打ち明けた。片山被告は、母親が口癖のように「早く平穏な生活が送りたい」と言うのを聞き、「一日も早く裁判を終わらせたい」と考え、自作自演のメールを送ったと説明。しかし、「もう言い逃れできない」と思い、19日夜に何度か自殺を図ったという。その後、20日午前6時15分ごろに佐藤弁護士に電話をかけ午前7時すぎに面会した。

 片山被告は佐藤弁護士との会話の中で、動機について「やってみたら簡単にできちゃった」。4人が誤認逮捕されたときには「やったー、という気持ちになった」などと語ったという。また自らを「サイコパスだと思う」とも。

 佐藤弁護士は20日開いた会見で、「こんな形で終わったのは驚きだが天は見ていたということだ」と唇をかむ。スマホを掘り返した捜査員の判断を「すばらしい勘だ」と称賛。「『やっていない』という人を信じるのが職業倫理だが、完全にだまされたということにはなる」と肩を落とした。

 今後の裁判の行方だが、片山被告は22日に開かれた公判で、無罪主張から一転、起訴内容を認めた。弁護側は「適応障害など精神的な問題が犯行に深く関係していた可能性がある」として地裁に精神鑑定を求める方針という。