登坂広臣「メンバーのサポートなしに100%の力で挑めなかった」
三代目 J Soul Brothersのボーカルとして活躍する登坂広臣が初めて演技に挑戦した映画『ホットロード』が公開中。熱狂的なファンを持つ漫画が原作の同作品で登坂は、NHK朝の連続ドラマ『あまちゃん』で一躍トップ女優となった能年玲奈と共演。伝説の漫画原作の実写化、そして国民的女優の映画初主演作品ということで話題を集めている。初めての芝居に加え、世間が注目する作品へ出演することについて、今率直にその本音を語る。
自分より自分を信じてくれた先輩や仲間が背中を押してくれた
それまで映画どころか演技もしたことがなかったという登坂。最初にこの『ホットロード』のオファーをもらった時には、出演に積極的ではなかったと言う。
「一番最初にお話を頂いた時は、自分がまったく思ってもいなかったオファーだったのでびっくりしました。正直、なんで自分なんだろうって…。その時期って、ちょうど三代目J Soul Brothersとして、もっともっと大きくならなきゃって思っていたし、日本のトップに立つグループに成長したいと思っていたので、出演をお断りしちゃったんです。自分はボーカルとしてフロントに立たせてもらってますし、そんな中で新たなチャレンジをすると、どちらも中途半端になる。そんなに自分の中に容量がないので、どっちも100%でできなくなって、自分としてもグループとしても何か大事なものをおろそかにしちゃうんじゃないかという不安があったんです。だから今はグループの活動に専念すべき時だと判断しました。それはお話を持って来てくださった方たちが、本当に真剣に向き合って下さったからこそ、こちらも真剣に考えないといけないと思って出した結論でした。それから半年ぐらい経って、また映画の関係者の方と原作者の紡木たく先生が足を運んでくださったんです。その時に、僕と能年(玲奈)さんでなければ実写化はしないとまで言ってくださって…。最初にお話を頂いた時に、原作も何度も読ませていただき、自分もこの作品のファンになっていましたし、グループでの活動をしている中で、長い目で見たら、一表現者として、これにチャレンジすることは、自分にとって大きな糧になるんじゃないかという考えに変わってきました。自分の歌に絶対に返ってくるし、グループにとってもプラスにはたらいてくれるだろうと。また、周りの人に相談しても誰も反対する人がいなかったのも大きいです。HIROさん、ATSUSHIさん、TAKAHIROさん…みなさんが背中を押してくれた。絶対に成長させてくれる大きなポイントになるし、何事にもチャレンジすることはいいことだと思うよって言ってくれて。しかも、お前なら絶対できるとも。自分以上に周りが自分のことを信じてくれていたので、それがすごく勇気と力になりました。また、一度お断りしてしまったにも関わらず、真摯にお話をして下さった紡木先生をはじめ。関係者の方の気持ちに応えたいというのも、出演を決めた大きな理由のひとつです。
自分を抜擢してくれた原作者と監督の気持ちに応えたかった
さまざまなプレッシャーがある中、登坂にしかできない春山(登坂の役名)を作り上げた。
「実は原作を読むまで『ホットロード』を知らなかったんですけど、周りの人に言うと“あの”ホットロード?!ってみなさんがおっしゃるので、この作品が世の中に与えた影響の大きさをひしひしと感じましたね。しかもその中でも春山は、愛されたキャラクターだと感じたし、紡木先生と監督が自分を指名してくれたとうい気持ちにしっかりと応えたいと身が引き締まりました。紡木先生になぜ僕だったのかはお聞きしていませんが、普段活動している自分を見て、『ホットロード』の春山を作り上げた先生が、どこか重なる部分を見つけて下さったんじゃないかと思います。実は撮影に入る前に監督がリハーサル期間を設けて下さり、演技のほかに春山をどうやって作り上げるかという話しをしていたんです。その時に紡木先生が“演じるとかセリフを言うとか考えなくていいよ”と。“登坂君のままでそこにいてくれることが春山になるから、そのままでいて下さい”って言ってくれて。それが一番難しくて、悩みましたけど、同時にそれが僕を選んでくれた理由なんだと思って、毎シーン、毎シーン演じていました。それ以外の準備はあまりしなかったですね。しいていえば、原作と脚本の中にすべての答えがあると思っていたので、それらをひたすら読み通したことと、尾崎豊の映像や音楽を聴いていました。この映画の主題歌が尾崎さんなんですが、それだけではなく、春山ってなんか尾崎さんのイメージだった。監督もリハーサルの時に“春山って尾崎っぽいと思うんだよね”っておっしゃっていたので、やっぱりそうですよねって。だから歌を聴いたり、インタビューなどの昔の映像を何度も何度も見たりして、イメージを膨らませていました。また、右も左も分からない世界にチャレンジさせてもらうことに、たくさん不安や葛藤もありましたけど、共演者の皆さんやスタッフさん、この映画に関わっていただいたすべての関係者の方が、僕がやりやすい環境を作って下さり、そのおかげでやり遂げることができたと思っていますので、今は本当に感謝の気持ちでいっぱいですね」
最初に予感したように、今回の映画出演で、表現者として幅が出てきたと言われるようになったとか。
「とにかく周りの人に助けていただいて、なんとかやり通すことができましたが、今回はずっと“登坂君らしく”って言われていたので、まったくの別人を演じたという感じはないんです。自分ならどうするんだろうって思いながらやっていたので、自分の中にまったく要素がない人ではない。ですから、正直演じる楽しさとかは分かってないのかもしれません。まったく別のキャラクターをやったらその楽しさが分かるのかも知れないと思う部分はあります。でもほかのキャストの方のスイッチの入れ方や、その役に入り込む姿を見て、リスペクトの気持ちを持つとともに、あらためてお芝居をする大変さも感じていました。能年さんもカメラが回っている時の存在感とかオーラがすごくて、さらにその力で僕のいろいろな面を引き出してくれた。そういう意味では能年さんには、引っ張っていただき、ほかの共演者の方ともども僕を立たせてくれていたんだなと思います。初号の試写はずっと冷や汗をかきながら見ていました。素直に作品を楽しむという感覚にはなれず、トオル役の鈴木亮平君や、ほかの仲良くなったメンバーに隣に座ってもらった(笑)。だから自分の周りだけ人がくっついてみんなに囲まれる感じで見ていました(笑)。メンバーにも見 てほしいけど、絶対見てるメンバーも照れるし、見られる俺も照れるだろうな。照れあい合戦がすごいことになります(笑)。でも、メンバーのサポートなしでは、この作品に100%の力で挑めなかったのは確か。自分が撮影で抜けていた時、ほかのメンバーがグループのことをやっていてくれたので、全力で作品に入れた。 そういった意味では、精一杯やった結果を見てほしいなとは思いますね。感謝の意味も込めて(笑)。この作品の撮影は去年の11月、12月で、今年の1月からはツアーに入ったんですけど、スタッフさんやメンバーから変わったって言われて…。自分ではまったくそんな感じはないんですけど、歌っている姿や表現の仕方が大きくなったと言われました。それは多分、この作品のおかげだと思うし、自分の人生にとって、表現者としてもプラスになったと思います。僕はボーカリストとして、歌の技術は高いのはもちろ ん、その曲の主人公になって、聴いてくれている人たちにメッセージをきちんと届けるということを一番大切にしています。それはお芝居の世界でも通じるものがあると思いますので、今回演技を経験して感じたことが、ボーカリストとして自分が得た一番大きな宝物じゃないでしょうか。今は次のお話も何もないですし、 お芝居についてはまったく白紙ですが、この作品のようにタイミングと出会いがあれば、その時にじっくり考えたいと思います。それまでは、僕らが目標とする日本を代表するグループになるべく、全員が一致団結して、精進していきたいと思っています」
紡木たくの名作コミックを青春映画の名手・三木孝浩監督が映画化。母親との絆に揺れる繊細な少女と、鮮烈な生き方をする少年の恋をピュアな映像で描く。2人の純愛だけでなく母と娘の愛を見つめた、命の再生の物語。
監督:三木孝浩 出演:能年玲奈、登坂広臣他/松竹配給/全国公開中