八重樫 真っ向勝負の殴り合いの末ロマゴンに敗れる
世界ボクシング評議会(WBC)のダブルタイトルマッチが5日、東京・代々木第二体育館で行われた。4度目の防衛戦に臨んだフライ級王者・八重樫東は同級1位のローマン・ゴンサレスに9回2分24秒、TKOで敗れた。
“ロマゴン”の愛称で知られるゴンザレスはミニマム級、ライトフライ級の2階級を制覇し、今回は3階級制覇のかかった一戦。ここまで39戦全勝で、いわゆる「強すぎて王者が対戦を避ける」選手。そんななか八重樫は「強い人に勝ちたい」という本能からあえてこの強者との対戦を選んだ。
4日の前日計量の時に「聞き飽きた」というほど戦前の予想では八重樫の圧倒的不利というものだった。
試合は結果だけ見れば、9回に2度目のダウンを喫したところでレフェリーが試合を止め、TKO負け。8回までの判定でも1人が80−71、2人が79−72と確かに圧倒的なゴンザレスの勝利。しかしリング上では数字には表れない激闘が繰り広げられた。当初は足を使ってゴンザレスの攻撃を交わそうと思った八重樫だったが、相手のスピードと圧力に断念。2回からは打ち合う作戦に切り替えた。3回には左フックでダウンを喫したが、これはしりもちをつく程度のダメージはないもの。しかしこれでよりいっそう玉砕覚悟の打ち合いに臨まざるを得なくなってしまった。
しかしゴンザレスとまともに打ち合おうという選手がこれまでいただろうか。殴られてもひるまずに殴り返す八重樫。いいパンチはいくつもあった。しかしディフェンスにも長けるゴンザレスは連打を許さない。逆に3発、4発、5発と八重樫にパンチを叩き込む。勝負が決まった9回も八重樫はまだ立ち上がって戦う意思を見せていた。
試合後のリングでは勝者と敗者が並んでインタビューを受けるという異例の光景があった。ゴンザレスの「八重樫は一番強かった」という言葉は社交辞令ではないまぎれもない本音だろう。
八重樫は「負けたのにインタビューなんてすみません。やっぱりロマゴンは強かったです。打たれたら打ち返す。ボクシングの根本のとこでしか勝負できませんでした。むちゃ怖かったです」と語った。そして控室では「僕はこれまでに何回も負けている。失敗とか挫折を経験として、これからまだあるかもしれないボクシング人生に生かしたい」と前を向いた。
一方、ライトフライ級はチャンピオンの井上尚弥が同級13位のサマートレック・ゴーキャットジムを11回1分8秒、TKOで下して初防衛に成功した。
井上は距離をつぶしにくるゴーキャットジムを左のジャブでコントロールし続け、一方的にポイントを重ねる。4、6回にはダウンを奪い早い回でのKOが期待されたが、結局11回まで仕留め切れなかった印象だ。
しかしその原因は「減量」。4月の世界王座奪取時も減量苦で足がふらついた。普段の60キロ弱からリミットの48.9キロまで身を削る作業は生易しくない。
井上は初防衛を置き土産にローマン・ゴンサレスらが君臨するフライ級に階級を上げる考えを示し、「いつかは八重樫さんの借りを返したい」と静かに宣言した。
ロンドン五輪男子ミドル級金メダリストでWBC同級12位の村田諒太はノンタイトル10回戦で、同21位のアドリアン・ルナと対戦。3−0の判定でデビュー以来5連勝となったが、連続KO勝利はストップ。スタミナに不安を残した。