スペシャル対談 山口ヒロキ(監督)× 前田希美(主演)
映画『グシャノビンヅメ』『メサイア−漆黒の章−』の山口ヒロキ監督の最新作となる映画『ヲ乃ガワ−WONOGAWA−』が11月1日から渋谷のイメージフォーラムで公開される。主演を務めるのはティーンの女子の間では圧倒的な人気を誇る、女優でモデルの前田希美。公開が待望されていた作品だ。
この映画は山形県米沢市の小野川温泉を舞台に天変地異によって荒廃した1000年後の世界を描いた作品。まずなぜ小野川温泉で映画を撮ることに?
山口「知り合いの映画のプロデューサーがテレビの温泉番組のプロデューサーと一緒に別の仕事で小野川温泉を訪れた時に、地元の人とお酒を飲んで意気投合して、“町おこしを兼ねて、小野川で映画祭か映画作りをしましょう”ということになったらしいんです。それで僕に声がかかりまして、2010年の冬に小野川温泉に行ったことが始まりです」
物語は西暦2033年に「大崩壊」と呼ばれる地球規模の天変地異が発生した1000年後の世界が舞台。温泉地に形成された「ヲ乃ガワ」と呼ばれる王国に住む考古学者・月山ヲノガは1000年前の地層から風化した携帯電話を発掘する。そこには歴史を揺るがす、ある証拠が隠されていた。調査を続ける中、仲間を次々と失いながらも核心にせまっていくヲノガだったが…。
この主人公・月山ヲノガを演じるのが前田。そもそもの2人の出会いとは!?
山口「『エコエコアザラク』というホラー映画の現場です。僕は監督補と編集で参加していました。まだ17歳だったんですけど、オーラがすごかったです」
前田「(笑)」
山口「ふだんはこんな感じ。ただの若い女の子、という感じなんですけど、カメラが回った途端に一変する。そこがすごかった」
ヲノガ役のオファーが来たときはどんな気持ちだった?
前田「初めてお会いしたときにすごく優しくご指導していただいて、またご一緒したいなって思っていました。監督の作品ってワンシーンワンシーンがすごくオシャレで、静止画にしてもすごく綺麗だなっていうイメージを持っていたので、声をかけていただいて、ホントにうれしかったです」
撮影は2012年夏。小野川温泉で2週間というタイトなスケジュール。
前田「2週間って決まっていたので、なるべくNGは出さないように気をつけました。そういう気持ちがあったので、撮影に入る前にはしっかり準備して小野川に向かいました」
相当過酷なロケだったという。
山口「虫はいるし(笑)」
前田「どこ行っても日向っていう(笑)」
モデルも務める前田にはけっこうきついシチュエーションだったのでは?
前田「そうでもないです(笑)。全然大丈夫でした」
山口「元気でしたね。むしろ現場を盛り上げてくれました」
前田「長期間の泊まりのロケっていうのがやったことがなかったので、それは心配だったんですが、温泉の力がすごく大きかった。毎日温泉に入って癒されました。ホントに疲れが取れるので、温泉の力ってすごいなってびっくりしました」
映画では時の権力者が歴史を操り、情報を統制し、民衆に何かを隠している。その真実を探ろうとするヲノガのような人々に当局の魔の手が迫る——という内容はなにやら日本の行く末を暗示させる。企画が立ち上がったときには思いもよらなかったはずだ。
山口「震災をはさんだことで、作品に対する意識が変わりました。企画がスタートした時点ではそんなことは考えていなかったんですけど、震災があって1年間企画が止まっている間に日本の中でいろいろな問題が起こったじゃないですか。それを踏まえて、東北で未来の世界を扱った映画を作るのであれば、そこに対しての何かを盛り込んでいかないと作る意味もないだろうと思いました。なので、そういう意識を持って、日本の現実社会のメタファー的な要素を盛り込みつつ、後半部分の脚本を変えていきました。そんな状況の中で、主人公がどう行動してどういう結果を出すかが我々の未来につながっていく、といった話にはしたいなって思っていましたし、そんな作品にできたと思うので、なにかを考えるきっかけにはなるのではないでしょうか」
制作過程も含め、山口にとってはひとつの転機となる作品。それは前田にとっても同じ。ヲノガという少女は多くのファンに、“女優・前田希美”をしっかり届けることのできる役になるだろう。
前田「私が好きなシーンはネプカキとのシーンなんです。ヲノガって劇中あまり笑わないんですが、ネプカキには笑顔を見せるんです。私はそこが好きなシーンなんですけど、逆にいうと、私が笑っているシーンは雑誌なんかでも見ることができるじゃないですか。なので、ほかのシーン、例えばヲノガが真実に向かって進んでいくシーンとか、強い意志をぶつけるシーンとかそういうところを見てほしいです」
ちなみに“ネプカキ”というのはヲノガの相棒として動き回るヒト型遺物探査機。山口の作品には欠かせない怪優・漆崎敬介が扮している。
山口の作品はジャンル的にはSF、ホラーということになるのだが、そちら側に過剰に振れることはなく、しっかりした人間ドラマや主人公の成長ストーリーが描かれている。「SF」という言葉に惑わされて見逃すことのないように注意が必要だ。
インタビューの最後にチラシに写るセットの写真を見ながら山口が言う。
「1000年後の小野川温泉の町並みを倉庫の中に奥行き100mに及ぶオープンセットで組んだんです。制作費が潤沢な映画でもあれだけ大きなものはそうは作らないと思います。小野川のいろいろな人が協力してくれたからできた。小野川ならではの映画だと思います」
まずは東京から、いずれは全国、特に東北の人たちにもぜひ届けたい作品だ。(本紙・本吉英人)
監督:山口ヒロキ 出演:前田希美、及川奈央他/1時間54分/配給/11月1日(土)よりシアター・イメージ フォーラム他全国順次公開
http://wonogawa-movie.jp/http://wonogawa-movie.jp/