大谷ノブ彦 カタリマス!(裏)
第20回 ムダする理由
ここしばらく、ずっと考えてることがあるんです。まだ考えを巡らせてる段階なので、ぼんやりとしてるんだけど、どうにか文章にするなら、ムダする理由を探してるっていうか、ムダをしたいって思うにはどうしたらいいかってこと。分かりやすいもの、説明しやすいもの、そういうものがエンターテインメントの真ん中にあるなかで、そうじゃないもの、ムダも楽しんでもらうにはどうしたらいいのかなって。
なぜそんなことを考えたかっていうと、東京にいながらにして温泉地と同じ泉質のお湯に浸かれる施設ってあるじゃないですか。それでいいんじゃないかな、十分だなって、自分が思っちゃったからなんです。温泉に行くとして、行くまで往復6時間かかるとして……その3時間の道のりに何もないと仮定した場合、同じ泉質の温泉に入れるなら都内でいいって思いません? これが食の場合でも同じじゃないかな。旅先でおいしいカニが食べられるとする。でも、そのカニ、都内で食べられる店があったり取り寄せできたりするなら行かなくていいやって。こう考えていくと、旅と実益、なんかうまくいってないなって。
それでも行きたいって思わせるには、なにか別のテキストが必要になってくると思うんですよ。例えば、俺、旅先では食事をするときは街を歩く人に普段何を食べるか聞くようにしてるの。そうすると、チキンカツがうまい店があるっていう。そこに行くと、地元の人でにぎわってる。チキンカツ、どこでも食べられる気がするけど、そのチキンカツはその店でしか食べられないんだよね。そうなると、海外向けにも芸者、相撲レスラーとかいう分かりやすい日本じゃなくて、本当は佐世保バーガーとかラーメン二郎じゃないのって思います。
この分かりやすいもの、説明しやすいものが真ん中っていうのを考えていくと、本や映画の状況にもつながってます。本を読まない、映画館には人がいない、これなぜかっていうと長いからだと思います。何を言いたいのか短く説明してくれよって、みんな思ってるんですよね。本も映画も15秒では分からないですから。時間をかけてラストに行くまで、そのムダを含めてこそ楽しさがあるのに。音楽ライブだって同じだよ。サマソニでクイーン見てた時、有名な曲をやった後で出ていくオーディエンスが多かったんです。それって「これでクイーン観た!」って分かったからでしょ。もう見た、もう見たぜって。
じゃあ何をしたらいいのか。自分でも分からないけど、解釈の仕方っていうか、その人たちにはない見方を提示してくしかないのかなって思ってます。リコメンドですね。うーん、これ、クルマの話のときにした合理性の話にも似てるかもね。