宮本亜門演出最新ミュージカルで奇妙な四角関係　島袋寛子

「衣装を身に着けると演じる役について改めて分かることがあったりして、すごく手助けになります。セットに入ったり、実際に劇場に行って照明を浴びたりするのも、勢いがつきますね」

　稽古期間は、稽古場と自宅を往復する毎日。家に帰っても「ご飯を食べて、お風呂に入って、寝るだけ。朝起きたらまた稽古場」。このミュージカルで1日が回っている。「毎日毎日、稽古場に行くのが楽しいです」と、本人は目を輝かせる。

　演出の宮本亜門と仕事をするのが夢だった。それが『ヴェローナの二紳士』で叶った。

「立ち稽古初日は西川さんと堂珍さんのシーンでした。亜門さんが演出する姿がすごくパワフルで、見ていたらうるうるしてきました。何に感動したのかってずっと考えていましたが、亜門さんの情熱というか、舞台への愛を感じたのかなって。亜門さんとのお稽古は、すごくやりやすいというか、心地がいいです。楽しいという意味での“楽”な感じです」

　ウィリアム・シェイクスピアの初期の傑作喜劇が原作。西川演じる主人公のプロテュースは恋人ジュリア（島袋）のいるヴェローナを離れミラノに行くことを余儀なくされるが、なんとミラノで友人が恋心を募らせるシルヴィアに一目惚れ。彼を追って男装してミラノを訪れたジュリアはひょんなことからプロテュースの小姓になるも、ジュリアだと気付かない彼からシルヴィアへの熱い想いを打ち明けられてしまい…。そんな奇妙な四角関係がポップロックやラテンテイストのナンバーでエネルギッシュに繰り広げられる。

「ジュリアは、痛い思いをいっぱいするのですが、ちゃんと成長が分かりやすく見える役。演じていて、とても魅力的です。劇中のナンバーも、もともとの曲はちゃんとあるのですが、今回の公演に合わせてアレンジであるとかテンポが変えられているのもあって、表現しやすくなっているのかもしれません。そのせいかな、いいことなのか分からないですけど、自分が演じているのかどうかも分からなくなってしまうくらい、気持ちがあまりにも自然に入るようなところがあります。稽古で私が泣きそうになったら西川さんもうるっとしていたりして、感情のストッパーが外れる瞬間があります。見ていただける方にも同じように思っていただけるのではないかな。どこかストッパーがかかっている部分があるならば、外れてしまう作品だと思います」

　ミュージカルへの出演は今作で3作目。手さぐりでスタートしたミュージカルだが、今は「チャンスさえあれば、年に1回できたらいいな」と思うほど、彼女の活動の軸のひとつになっている。

「最初はまったくできなかったし、そんな自分に対していろんな声があったことも知っていましたけど、その上でミュージカルを掘り下げたいって続けてきました。いろいろ学ばせていただいて、今はようやく取り組み方、稽古場での自分のあり方が分かってきました。何を考えたらいいのか分からなくて悩んでいたけど、今は、何を考えるかは少なくとも分かるようになってきたかなって。あとそれに、ミュージカルが好きだっていうのはちゃんと分かりました。こういう感情があるからこの動き、この流れがあるからこの歌、メロディー、歌詞。すべてに意味がある。そういうのが私、好きみたいです」

　今年30歳になった。自ら、今を「変化の時」だと語る。そんなタイミングでの、念願の宮本との仕事。これからの活動にも大きな影響を与えそうだ。

「活動するうえで、テーマにしているのが、挑戦すること、動くってことです。このミュージカルはもちろん、映画、ジャズや沖縄の音楽をやった時もそうですが、何か新しいことをするときはワクワクと同時に不安もありますけど、自分がトライする姿勢をさらけ出して行けたらって思っています。だから、気になったことや、大事にしていることを届けていきたいと思います」

　28日まで日生劇場で上演。
（本紙・酒井紫野）