コザの街で歌うフォークとブルース『sing KOZA blues』ひがよしひろ
コザといえば、昔からロックの街として全国的に知られている。70年代には、紫やコンディション・グリーンといった伝説のバンドが続々と登場し、オキナワン・ロックというジャンルを作り上げたがその一方で、フォーク・シーンも存在していたことはあまり知られていない。
ひがよしひろは、そんな70年代のころから音楽活動を始め、今も現役で歌っている数少ないフォーク・シンガー。フォークといっても、彼の渋くしゃがれた歌声はブルースといったほうがいいかもしれない。全国津々浦々を放浪しながら実力を付けてきたが、なぜかこれまでレコード・デビューすることはなかった。しかし、満を持して発表したのが、このファースト・アルバムとなる『sings KOZA blues』だ。
アルバムのタイトルからも分かるとおり、コザの風景が切り取られたナンバーが多数収録されているのが、本作の特徴。まずは、返還前のギラギラとした街の風景が描かれた『熱帯夜』と、まだ映画館があったころのゲート通りを優しく見つめる『KOZA黄昏に吹かれ』との対比と表現力に圧倒される。また、無骨なブルースをベースにした『別れはブルースで』や『彼女はいい女』、そしてまるで70年代のボブ・ディランを思わせるフォークロックの『女優』といったナンバーからは、彼がフォークとブルースを自由に行き来できるセンスを持っているのがよく分かる。三線の音色も取り入れながらウチナーグチで披露する美しい『月夜の願い』や、どこかノスタルジックながらも今を生きる友人たちへのエールを込めた『語る想いは友からの夢』なども説得力満点。ラストの『ヨンナァ』も愛する人へのメッセージが心に染み渡る。この冬、ちょっと暖まりたいなら必聴の一枚だ。(栗本斉)
ひがよしひろ
Pヴァイン2700円(税込・発売中)