2015シーズン開幕直前特集 やっぱり、プロ野球は熱い
独占対談 松本秀夫アナ × 江本孟紀氏 後篇
——パ・リーグはどうでしょう?
江本「1位はソフトバンク、2位がオリックス、そして日本ハム。日本ハムも普通Aクラスに予想しちゃいけないんですけど。そして4位は楽天。これは…デーブ大久保との関係があるんで(笑)」
松本「必ずなんかちょこっと入りますね」
江本「うん、ちょこっと入る(笑)。5位が西武、6位がロッテ」
松本「ロッテは…やはりそうなっちゃいますよね」
江本「ただし、ここは2強4弱で、3位以下は分からないです。パ・リーグがいい加減なのは、リーグ優勝したり日本一になったりした翌年に最下位になったりする。ここ最近で3チームあるんですけどね。こういういい加減な野球をするので予想がしづらいんです」
——いい加減な野球というのは?
江本「打って投げて走るだけだから。つまり選手任せ。選手が良ければ勝つし、ダメだったら最下位、みたいな野球。楽天がいい例でしょ」
——田中が抜けた後にちゃんと補強しない球団が悪い?
江本「補強はしましたけど、それがとんでもない補強だった。田中のマー君がいなくても、育てればいいわけです。補強で済ませるのなら、別に70〜80人も選手はいらないじゃないですか。みんなそこを勘違いしているんです。巨人も補強をしなかったというけど、当たり前ですよ。2億、3億稼いでいる選手がゴロゴロいて、何を補強するんだって。お前らが働けば普通に優勝するじゃないかっていうことです。みんな勘違いしているんですよ。それだったら監督は要りませんもん。松本さんでもできますよ」
——では12球団の中で一番いい監督ってどなたですか?
江本「そりゃ巨人の原監督でしょ。年俸の高い選手を扱うチームというのは難しいんですよ。みんな調子が良かったらいいんだけど、不振になった時が問題。去年は100通り以上オーダーを組み直したでしょ。原監督以外の監督だったら多分、オーダーをいじれないです。選手のほうが偉いから。そうすると泥沼に入っていって、去年なんて恐らく最下位だったんじゃないですか」
——原監督の監督力はすごいんですね。
江本「今の12球団では図抜けてますよ」
松本「誰かに気を使うということがないですよね」
江本「全くしない。ばっさばっさいきますから。4番でも次の日に7番にしたり。師匠がいいんですよね。お父さんもいいんですが、藤田元司さんのような自分に影響を与えた人のことが頭に入っている。珍しいですよ、ああいうスターだった人がそういうふうに野球を吸収するのは」
——巨人は戦力が揃っているから強いなんて言う人もいますが…。
江本「そういうことを言うのはしょせん素人です。それだったらオリックスとかはとっくに優勝してないといけない。たくさん補強していますから。補強というのは、補うだけですからね。補うところがないとダメなんですよ。別に補わなくてもいいところを補強する必要はないんですよ。それと正反対なのが、あれだけの選手がいるのに優勝できない阪神。選手に気を使い、何も動けない。ずっと選手任せで固唾を飲んで見守るしかない。そういう監督」
——阪神って暗黒期が長くて、野村、星野両監督で立て直して優勝して、その後それなりに順調にも思えるのですが、最近またそういう感じなんですか?
江本「正確にいうと、野村さんは3年連続最下位ですから。チームとしては最悪だった。星野さんが3年契約できて、その1年目は4位だった。3年でだんだん上がっていけばいいなって思っていたのに、2年目で急に優勝しちゃったんで、星野さんも慌ててやめたんですね(笑)」
——慌ててやめた?
江本「そうなんです。慌ててやめたんです。“あ〜こりゃいけねえ”って。それは多分、野村監督の3年の暗黒時代が実を結んだんじゃないかって言われています。そのあとに岡田監督でも優勝しましたよね。2人の影響力が、じわじわとチームに浸透していたんでしょう。野村という人と星野という人は、“絶対に俺が球界の一番や二番だ”と思ってやっていたわけでしょ。これがチームに対していい影響を与えるんです。“うちの大将は偉い。長嶋さんのこともボロクソに言う”ってなると安心するじゃないですか。そういう精神的な強さ、“自信持って野球せい”みたいなことを植え付けた。それは野村さんがヤクルトの監督をやったときもそう。楽天でもそうです。ただし一発芸だから続かない(笑)」
松本「猫だましじゃないですか(笑)」
江本「星野さんは監督やってる年数は相当長いんですが、連覇はないしね。日本一は最後に楽天でなったけど、翌年は最下位でしょ。最下位のこと誰も言わないもんね」
松本「これを言えるのは江本さんしかいないですよね」
江本「なんで最下位になったかちゃんと検証しないとね。でも楽天はそれでも自信がついたじゃないですか。かつての阪神と一緒ですよ。ところがそれ以降、阪神はね。あの2人は曲者で球団としても扱いにくかった。だからやっとチームも強くなったし扱いやすい監督にしようってことで、真弓とか和田とかにしちゃった。見かけはいいですよ。阪神沿線にポスター張ったら“男前やー”っておばちゃんが見に来て喜んでる。でもそれをやっちゃダメなんですよ」
松本「選手ににらみが利かなくなっているんですね」
江本「間違いなく、選手は監督より自分のほうがえらいと思っていますから。星野さんとか野村さんだとちょっといくらなんでも、“あんたより俺のほうが偉い”とは言えないけど、弱そうな監督になったら、なめる癖があるんですよ」
松本「新聞も阪神の場合はちょっと負けるとすぐストーブリーグが始まりますから。選手の悪口は書かないですけど、監督はボロクソ書かれるじゃないですか」
江本「そういうところに立たされる精神力がないといけないんです」
——今までみたいな話ってなぜ江本さんしか言えないんですか?
江本「僕は、グラウンドに行くから。悪口言っても次の日にはそのへんでうろうろしていますから。これはコツです。野球界には暗黙のルールがあるんです。グラウンドに降りて来ない解説者がボロクソに言うとみんな反発する」
松本「見てもいないくせにって」
江本「見てもというか、“グラウンドに降りてこないくせに何言ってるんだよ”って。だから私は一番最初にグラウンドに行くんです。放送席は一番最後。放送席で初めて会うディレクターは今来た、と思っているんです」
松本「(笑)江本さんはケージの後ろにいらっしゃいますから。周りは若手ばかりなんですよ」
江本「ずーっとはいないんですよ。一発芸でガッといって」
松本「必ず監督のところには行かれて」
江本「でも選手とは喋らないです。情が入るから。やっぱり喋ったり挨拶したりすると僕も言いにくいんですよ。人間がもともといいから(笑)」
——大久保監督とか中畑監督とか。
江本「ああいうのに弱いんですよ」
——放送の前にアナウンサーと2人で打ち合わせなんて…。
江本「したことない。放送席で初めて会う感じです」
松本「打ち合わせしてもその通りには決してならないですから」
——すっと放送に入れるものなんですか?
松本「そうですね…」
江本「優勝争いしているとか開幕だとか、ちょっと全体の波があるときには全体のテンションで行くという…。でもそれは打ち合わせしなくても空気でそうなっていますから」
——実況前はそれぞれなんですね。
江本「アナウンサーの人は取材が早いんです。もう昼過ぎから球場に行って見ている。僕らは直接そういうことはやらない。やらないけど、各チームにスパイがいましてね(笑)」
松本「(笑)」
江本「それは何十年もの歴史の中でそういう人を一応置いているんです。それで今日はちょっとチーム事情を聞きたいなって思った時は、グラウンドに降りたら真っ先にそいつのところにいって“どんな感じや最近?”って。あとはスコアラーとかね。アナウンサーは直接選手に聞くよね」
松本「表の情報は僕たちが」
江本「僕らは裏だから。裏のことを頭に入れておいて、表の情報をもらったときに、ちょっとしゃべればいいんです」
松本「僕らが聞くのは公式コメントですね」
——そのへんがいいバランスで放送に乗ってくるんですね。松本さんは江本さんからえぐい話がでてきたときにはどうするんですか?
江本「おたおたしてるよね(笑)」
松本「たまに暴走しますので。暴走族ですから(笑)」
江本「ジジイ暴走族ですから(笑)」
——そういう時はどういうふうに対応するんですか?
松本「突然実況に戻ったりします」
江本「いやいや、松本さんはそこからぐいぐいきますよ(笑)」
松本「いや、あの…たきつける時もありますけど」
江本「たきつけがすごいから」
——そこは長年の阿吽の呼吸で。
松本「江本さんは、うかつに“そうですね”って言っちゃいけないことをおっしゃる方なんです。よく僕らは解説の方がしゃべっている時に資料を見ながら“はいそうですね”って言っている時があるんですが、以前“この選手は早く引退したほうがいいですよ〜”とか言われた時につい“そうですね”って言っちゃいまして、江本さんに“いやいや、そうですねじゃないでしょ”って逆に突っ込まれたこともありました。だから聞き耳を立てて、“それは違うでしょ”とか言わないといけない。全部“そうですね”と言うと、地雷を踏んでしまうんです(笑)」
江本「僕は基本的には、面白い放送をやりたいと思っています。クソ真面目に野球の理論だとか議論だとか技術だとかを、そんなにたくさん喋ってもしょうがないと思っていて、なるべく技術論は喋らないようにしている」
——そのほうが聞きやすいですよね。
江本「テレビだとまた違ってくるんですよね。だから僕はそこは使い分けてます。でも年に何回か関西でテレビの解説をすることがあるんですが、関西系はよくしゃべるんですよね。ずーっと喋っている。“そんな話どうでもいいだろう”って言いたくなるんですが、関西はそうじゃないと受けないんですって」
(ここで江本さんの口から実名が…)
松本「ここは“そうですね”って言っちゃいけないところです(笑)。これはダメですよ」
江本「ここ一番の時に、アナウンサーが“振りかぶって2ボール2ストライクから。さあ次何投げますかね? ○○さん?”って聞くんです(笑)」
松本「(笑)」
江本「俺はフォークだと思って待ち構えているのに、カクって(笑)。あんたピッチャーじゃないでしょって。そういう客人で行った時の辛さもあるんですよ、解説者は」
松本「アナウンサーって解説の方の踊り場を作るのも仕事。ここは絶対に江本さんに聞かないと、ここは絶対に江本さんがおっしゃりたいことがあるなっていうところの、ツボを外しちゃうとダメなんですよね。でもなんとなくね、江本さんはおっしゃりたい時は“うーん”って言い始めるので“あっあるな”って分かるんです」
江本「それはテレビでは全然ないんですよ。テレビは極力喋らないで、ポイントだけ喋ればいいなと思っているんです。だからテレビとラジオの解説は違いますよ。あと解説者2人とか複数でやるときは別の難しさがありますね」
松本「江本さんはこう見えて、なんていうと失礼なんですけど、相手をすごく立てられて、引き気味になられて、喋りたいんだったらどうぞって感じになるんです」
江本「オールスターとか日本シリーズなんかだとゲストが来るでしょ。そういえばロッテのキャッチャーの里崎は面白かった」
松本「今年からニッポン放送の解説陣に加わっていただきましたね」
江本「ああいうふうに野球を分かっている選手は面白い。選手の中でも野球を分かってやっているやつと分からないでやっているやつがいるんです。才能で野球をやっているやつは分かっていない。野球選手でも少年野球のまんまみたいなすごい幼稚なやつもいるんですよ」
松本「そこまで言いますか…」
江本「(笑)あの…」
松本「実名はもういいですよ!」
江本「それはそれで面白いですけどね。話のツボってあるじゃないですか。それが分かっていると、こっちも安心するんですよ」
——実況はラジオで聞いて音を消してテレビを見るというのも面白い?
松本「大げさなのがバレちゃいますね(笑)」
江本「普通のレフトフライなのに、ちょっと振り向いただけで“入った”みたいに言うしね」
松本「大きい大きい、ってね。盛ってるなって言われちゃいますね(笑)」
——耳で聞いて自分の頭の中でビジュアル化するほうが全然面白いですね。
江本「そのほうが全然面白いですよ」
松本「ショウアップナイターって言ってるくらいなんで、ショーアップして若干過剰になることもありますから。」
——なるほど。
松本「伝統ですね」
江本「僕らは、それが始まったら下向いてますもん(笑)」
松本「ああ始まったって」
江本「実況中って大変なのはトイレなんです。普通はアナウンサーって行かないんですよ。ずっとしゃべりっぱなしですから。でも中に一人ね、コマーシャルの間に行く人がいるんですよ。天才的ですよね。あの間にですよ」
——まさか…?
江本「そのまさかです」
松本「いや、70秒あるんですよ、コマーシャルって。そのあいだに行って帰ってくればセーフなんですよ」
江本「それはいいんですけど。普通行かないですよ。その間に」
松本「東京ドームは遠いんで、ホントにもう大変なんですけど」
江本「手は全然洗ってないと思うよ(笑)」
——70秒で戻れますか?
松本「ええ、長年やっているうちに」
江本「全国でただ一人だと思いますよ、この早業、このテクニック」
松本「この仕事は結構我慢して、職業病で尿路結石をやる人が多いんですよ」
——70秒のCM明けに松本さんの息があがってたら、トイレに行ってたんだなと。
松本「それはそうですね(笑)」
江本「僕らは行けるんですが、いいタイミングで行かないといけないんです。巨人の攻撃のときはいいんですよ。巨人が守備につくときはみんな一斉にトイレに行きますので、その前、巨人の攻撃が始まる前のCM。相手の最後のバッターがアウトになる瞬間に行く。それからは僕に話は振られませんから」
——解説者に話を振らない時間が長いなって思ったら…。
松本「解説の方がいないときですね」
江本「でもアナウンサーの人はずっと喋っているから大丈夫ですよ。1時間でも喋れるから」
——今シーズンの開幕戦「巨人vs DeNA」戦を2人で担当されます。改めて開幕戦と今シーズンの見どころを!
江本「例年、野球熱ってシーズン前に一度ガーッと盛り上がるんです。今年も巨人が連覇できるかとか、中畑のDeNAも上がってきそうといわれるなかで、どんな戦いを見せてくれるのかというのは見所ですよね。また長い目で見ると、巨人は前評判は悪いけど果たしてどうなんだろうか、という興味もあります。今年もいつもと違う盛り上がりはすると思いますので、それに負けずに頑張りたいと思います」
松本「昨年はDeNAが巨人に一矢報いました。DeNAは今年は昨年以上に若い選手が多くて勢いがある。一方の巨人は若干開幕前にばたばたしているようなので、開幕から緊張感のある、今シーズンがどうなるかを占えるような、そして今シーズンを象徴するような試合になると思うので気合を入れて実況します。トイレは行きません!(笑)」
(聞き手/本紙・本吉英人 取材日:3月13日)