太宰治を聴く、そして演る

三鷹市芸術文化センターで今年も朗読会と演劇公演開催

 昭和の文豪で、『走れメロス』といった教科書に載るような作品から、『人間失格』のような人生の深淵に迫るような作品まで多くの著作を残した太宰治。昨今ではお笑いコンビ、ピースの又吉直樹が「太宰好き」を公言し、今まで太宰とは接点のなかった人たちにもその名が浸透してきている。

 太宰は昭和23年に没するのだが、昭和16年からの晩年を三鷹で過ごした。三鷹の禅林寺には太宰のお墓があり、彼の命日であり生誕日でもある6月19日の桜桃忌近辺ではいまだに墓参に訪れるファンは多い。

 この禅林寺の斜め前にある三鷹市芸術文化センターでは2000年から「太宰を聴く〜太宰治朗読会〜」、2004年からは「太宰治作品をモチーフとした演劇公演」を開催している。

 今年の朗読会は7月10日に行われ、俳優の國村隼(顔写真)が『姥捨』(昭和13年)、『あさましきもの』(昭和12年)、『眉山』(昭和23年)の3作品を朗読する。

『姥捨』は太宰が妻と起こした心中事件の顛末について書かれた作品。『あさましきもの』は「こんな話を聞いた」という言葉で始まる3つの短編からなるもので、文字通り、あさましく、そして弱い男の姿が描かれたもの。『眉山』は太宰本人かと思われる小説家の主人公が常連となっている飲み屋の女の子のお話。なんとも言えぬ、切なさと後味の悪さという相反する感情が入り乱れた作品だ。

 この3作品に共通するのは「大人の色気」「人間の凄み」といったもの。まさに國村という俳優のイメージにぴったりの作品だ。

 朗読会に先駆け6月27日からは「太宰治作品をモチーフとした演劇」水素74%の『わたし〜抱きしめてあげたい〜』が上演される。

 この企画では特定の太宰の作品をモチーフにする場合もあれば、複数の作品、または太宰本人をモチーフとする時もある。これまで、その作家独自の視点によるさまざまな形の “太宰的なもの”が表現されてきた。

 朗読会が太宰の作品をストレートに伝えるものとするならば、演劇は現代に生きる者の目を通しての太宰だったり、現代に生きる者の中にある太宰、死してなお現在進行形の太宰のマインドを表現するものとなっている。

 今年、作・演出を担当する田川啓介は太宰の『道化の華』という作品を中心に作品を描く。太宰の作品では、自らをモデルとしたと思われる登場人物がそのダークな部分をさらけ出すといったものが多い。田川の作品にも“ダメ”な人が多く描かれているのだが、そのダメさ具合が性格に過剰な部分を持っていたり、逆に欠損していたりという、太宰の世界観とリンクするものであり、相性の良さを感じさせる。

 演劇は7月5日まで。朗読会、演劇公演の詳細、チケットの購入は三鷹市芸術文化センター(0422-47-5122 http://mitaka.jpn.org/geibun/)まで。