【地方創生 ×TEAM2020】奈良市から日本を元気に 仲川げんさん(奈良県奈良市長)
地方創生を推進し、日本を元気にするために、各市町村が行っている取り組みを紹介する不定期連載。JAPAN MOVE UPの総合プロデューサー・一木広治がさまざまなキーマンに鋭く迫る集中企画。
奈良市ならではの独自政策というとどんなものがありますか?
「今年でまだ2回目なんですが、昨年から『珠光茶会』というお茶会を始めています。茶道といいますと、京都、もしくは堺のイメージがありますが、わび茶は千利休ではなくて、利休の2代前の師匠にあたる村田珠光という奈良の方が始められたものなんです。お茶には表千家、裏千家、武者小路千家という“三千家”といわれる流派がありますが、珠光茶会はこの3つが一緒になって運営しています。これは今までにはない形。わび茶発祥の地・奈良だからこそ一緒にやりましょうという話になりました。今、日本には大きなお茶会としては『大師会』と『光悦会』という2つがあるんですが、日本三大茶会と呼ばれることを目指しています。お茶というのは、農業としてのお茶生産、道具なら伝統工芸。そしてお菓子・食事、建築といろいろな分野に裾野が広がっていく総合芸術ですので、お茶会自体を楽しむだけでなく、お茶を通していろいろな産業に光を当てたいと思っているんです。奈良ってお茶をはじめとしていろいろなもののルーツがあるのですが、そういったものを掘り起こして事業化していきたいと思っています。文化を作っていくというのはコストも時間も手間もかかるんですが、奈良のような地方の都市では行政も文化を作るということに、ある程度意識を持っていかないといけないと思います。文化がなくて古いものだけが残っているのであれば、それは単なる歴史ミュージアムでしかない。“リビングヘリテージ、生きた遺産”と我々は呼んでいるんですが、奈良の本当の価値は、途中の過程も含めての文化が残っているということ。海外では、“3000年前にここに都がありました”といって、石の塊の宮殿の跡なんかがありますが、それは完全に過去の死んだ歴史ですよね」
日本の文化の再発見、再認識ですね。奈良といえば観光。観光についての奈良のポテンシャルはどう考えていますか?
「奈良は通過型観光のメッカみたいになっているので、いまは“もう一食もう一泊運動”というものをやっています。少しでも滞在時間を延ばしてもらうために、従来の人気観光地の他に奈良町という江戸時代の後期の街並みが残っているエリアをテコ入れしています。あとは外国人観光客の数がものすごい勢いで伸びていますので、そういった人たちに対してどれだけ深いところまで奈良を理解してもらえるか。例えば、大仏様の大きさとか古くからあることへのすごさに関心を持ってもらうだけでなく、大仏様はなぜ作られたのか、といった背景なんかにも興味を持ってもらえれば、と思います。当時、聖武天皇は“動植ことごとく栄えんことを欲す”ということをおっしゃいました。これは“動物も植物もともに栄えるような世の中を作ろう”という意味なんですが、大仏様はその象徴として作られたんです。そこからは聖武天皇のリーダーシップというものもうかがい知ることができます。そんなリーダシップ論にしても、企業経営などにつながる知が詰まっています。どうやって国づくりをするかという話もそうです。ものすごくよくできた仕組みが奈良時代にありましたので、そういうところも海外の方に知ってもらえれば、奈良を通して日本という国を理解してもらえるのではないかと思っています」
地方創生において、東京との連係にはどんな考えを。
「私は市長になる前、NPOで活動していたときも、週の半分を東京を中心とした全国各地、残り半分が奈良という生活でした。自分の住んでいる町と、それ以外のところを半分ずつくらいにすると、それぞれのいいところと悪いところが見えてきます。奈良の場合は地方でありながら、不便なわけではない。すぐに都会に出られるという良さがあるので、その利点をアピールして2拠点居住というものをどんどん押し進めていければと思っています。日常の生活の中に田舎の人間らしい暮らしの部分と東京の利便性の部分の両方を取り入れて生活していくようになると、精神衛生上もいいのではと思うんです」
そういうなかで、2020年には奈良市をどんな都市にしていたいですか?
「今はアイデンティティが揺らいでいる時代。自分の寄って立つところがないことが過剰な振る舞いにつながっている部分もあると思います。自分の立ち位置を守ろうとすることによって人を攻撃するという発想ではなくて、自分のルーツをしっかりと意識することを通して包摂するというような考え方を持つようにできないかと思うんです。奈良は他の文化のいいところどりをして国を作ってきたような街です。日本で最初の町の成り立ちを知ってもらえれば、“日本は日本だけでやってきた”といった凝り固まった発想からは離れられるように思うんです。2020年のオリンピック・パラリンピックは、単にスポーツイベントとしてではなくて、国として今まで何をしてきて、これから何をどうするのかということを一度しっかりと考え直すきっかけです。こういうことはオリンピックのときに考えなかったら次に考えるタイミングなんてない。僕は戦後70年が80年90年と続いていく保証はどこにもないと思っています。だから本当に2020年を、なんとなくみんなが盛り上がるだけのイベントに終わらせないようにしないとダメ。そんなことを意識して、我々は老舗の味を出していきたいなと思います」