広告PRのスペシャリストが考察 「いかすぜ日本」~クールなJAPANを世界に売り込もう!vol.3
僕がアメリカに移住したのは14歳の春。
「クラスの皆さ~ん、日本からやってきたベッシャー君です。英語が苦手なようだけど、仲良くしてね」転校初日、このように先生に教室で紹介されました。それまで、ロシア語と日本語で育った僕は言葉が通じない同級生と仲間になれるのかとても心配でした。授業後の休憩時間、学生に囲まれ、一気に話しかけられたのですが、会話にならず動揺してしまいました。ウルトラマンの胸に点滅するカラータイマーのように僕の心臓は破裂しそうなくらいバクバクしていました。ピンチの度合いは「赤」に達し、絶体絶命寸前です。そんな時、僕を救ってくれたのがウルトラマンだったのです。どこからともなく、だれかが、「ジャパン! ウルトラマン!」、と叫び、皆で大笑いしたのです。そうです、言葉は通じなかったけど、ウルトラマンが共通の話題になりました。驚いたことに、同世代のアメリカ人が皆、ウルトラマンを知っており、「ウルトラマンはクールだ! ウルトラマンが誕生したジャパンは凄い!」と大騒ぎになりました。僕がクール・ジャパンのパワーを知った初めての経験でした。
1966年に日本で誕生したウルトラマン・シリーズは1973年ごろからアジアでも放送が始まり、その後、米国や南米にも広まります。1980年代には9カ国語以上のウルトラマン・シリーズが知れ渡るようになりました。結果、世界中でクール・ジャパン普及の先駆的な役割を担っていったのです。
そんなウルトラマンに「都市伝説」があると最近知る機会がありました。『日本人はなぜ存在するのか』という本にウルトラマンの沖縄ルーツの話が載っていたのです。調べてみると史実でした。ウルトラマンは円谷プロに所属する沖縄出身の脚本家、金城哲夫により立案され、彼の企画路線と監修はウルトラセブンまで続きます。実際、金城さんが担当したウルトラマンの作品には沖縄のヒントが多々あります。ウルトラマンが生まれたM78星雲は「南、那覇」に由来。伝説の怪獣たち、「キングジョー」は沖縄に多い苗字「金城」、頭でっかちの「ジブル星人」は琉球語のジブル(頭)より命名、ザンバ星人は有名な沖縄泡盛の「残波」から名づけられた、等々。
でも、大切なのは沖縄問題の本質と重なる物語です。ウルトラマンは地球人(科学特捜隊)と協力して地球侵略を企てる怪獣と戦う話ですが、初代ウルトラマンの魂が乗り移ったハヤタ隊員は宇宙人と人間の両面を持ちます。地球(日本)を救うために「正体を隠して生きるマイノリティ(沖縄)」なのです。ウルトラマンは義理もないのに、なぜ自分を犠牲にしてまで地球のために戦わなければならないのでしょうか。このような文脈で考えると、金城さんのウルトラマンは現代日本に沖縄の問題を映写しているとも言えます。ウルトラセブンの最終回、キリヤマ隊長が残した言葉に「地球は我々地球人が自分たちの手で守らなければならないのだ」があります。地球を守るためにボロボロになったウルトラセブンを労わる言葉です。沖縄と日本は共存しなければなりません。今、必要なのは日本が沖縄に感謝し、沖縄を労わることではないでしょうか? 沖縄もウルトラマンも「クールな日本」として世界に広まっています。ウルトラマンの放送の終わりに繰り返される、「ありがとうウルトラマン」が改めて心に響きます。
鼈舎アルセニ(ベッシャー・アルセニ)通称チュック(Chuk)
神戸市生まれの日本人。コロンビア大学、国際関係・公共政策大学院修士課程修了。自民党系シンクタンク、メディア会社経営、CNN 日本語放送キャスター、米国投資銀行、アジア財団日本代表等の職業を歴任。平成19年大手飲料会社入社後、広告・PR などの統括として五輪やサッカーW杯に携わるなど多岐にわたり活躍。現在は政策渉外・CSR 業務の企画・管理を担当。趣味、滝修行。