春風亭百栄 × 三遊亭兼好 11月25日「我らの時代 落語アルデンテXII」で競演

 個性的な2人が銀座のとある居酒屋でなにやら話している。今度の落語会の打ち合せかと思えば…。

百栄(以下、百)「家の猫がね、老衰でぼちぼち危ないんですよ。でもまあ、2年ほどノラでその上で17年ぐらいなので、もう十分生きたんですけどね」
兼好(以下、兼)「ノラで過ごすとダメなんですってね。最初から家で育ててると長生きする」
百「そうそう、初めから家で育てると長生きする子で20年以上生きますからね」
兼「でもノラ猫の年って何を見れば分かるんでしょうね」
百「肉球に年輪とかがこう…」
兼「あれば分かりやすいんですけどね(笑)。なんか簡単に分かる方法があればいいのに」
百「見た感じだけですよね(笑)。なんとなく、ざっくりと5歳ぐらいかなとか」
兼「多分、このままでいくとずっと猫の話になりますよ(笑)」

 ゆるーい感じで始まったこの対談。話は落語家の結婚事情に。

兼「僕なんか、入門した時には子どもがいましたから。それは珍しいとして、二つ目で結婚する人って多いですよね」
百「うん」
兼「それに人にもよりますが、意外と落語家はイクメンが多い。前座の癖がついているので、掃除とかまめにやりますからね」
百「確かにそうだ。僕なんか師匠に優しく育てられて、家にも来なくていいし、来ても何にもやらないで飯でも食っていけよって言われていたんだけど、ほかの前座と話が合わなくなるので、自分で何か見つけてやっていましたもん」
兼「前座の経験をやっていたのね(笑)」
百「その癖がついているから、今でも奥さんが先に外出すると、出て行ったあとに家の掃除始めちゃう」
兼「そうなんですよ。洗い物とか、洗っておかないと次にいけない(笑)」
百「で、ちゃちゃとやって僕の場合はまた寝ます」
兼「寝る前には基本掃除です。でもほんと(柳家)三三の兄さんぐらい売れていても洗濯物干すんだから。多分(笑)。(春風亭)一之輔君だって、あれだけ売れていてイクメンだし。やっぱり二つ目で結婚する人が多いのは、落語家が寂しがり屋だからですかね(笑)」
百「女の人は早くお嫁さんになりたいっていう気持ちがあるじゃないですか。それって、別に旦那さんに全部頼るわけでもないし、自分も働くけど、やっぱり旦那さんがいると心の支えにもなるし、ちょっと楽っていうかね…。そんなに必死に働かなくてもいいみたいな(笑)。僕はその気持ちを持って結婚した。かみさんが働きに出て、自分が家事をやるなんて、こんな幸せなことないです。だから家事なんて嫌だなんていうことはない。喜んでやります。だって家にいられるんですよ。横になって『相棒』とか見てられる(笑)」
兼「それ再放送のほうでしょ(笑)。でも一之輔君とか(桂)宮治くんとかガーっと行くタイプに限って家族を大切にしている。逆に家族に優しそうな人ほど怪しいですよね(笑)」

 2人の話に出てきた一之輔、そして桃月庵白酒の4人で定期的に行っている落語会「我らの時代 落語アルデンテ」が11月25日に池袋・東京芸術劇場で開催。同落語会は一之輔がまだ二つ目だった2010年からスタート、今度の会で13回目を迎える。個性のまったく違う4人の落語家の競演が人気の落語会だ。

百「僕はね、本当言うとこの会がずーっと定期的に続くと思っていなかった」
兼「私も。一回だけの会だと思っていた」
百「で、アルデンテっていう名前がついたのは別にいいんですけど、その上に“我らの時代”ってついていたんです。それがすごく照れくさくて(笑)。“我らの時代”って(笑)。それに我らは我らのことを我らとは言わないですよ(笑)」
兼「言わない(笑)。なんか落語家より政治家とかが使いそうですね。我ら(笑)」
百「まあ、それはいいんですけど、たまにお題が出るじゃないですか。昼の部と夜の部がある時とか、2DAYSの時に“白アルデンテと黒アルデンテ”とか“昆布アルデンテと鰹アルデンテ”とか。ああいうテーマは気にしてる?」
兼「ないですね。一人ぐらい誰かが言葉の端にちょっと入れるぐらいじゃないですか? 百栄師匠は?」
百「僕もない。でも “白アルデンテと黒アルデンテ”の時に白の会で『露出さん』っていうネタをやったのは覚えています」
兼「あー、あのいい人が出てくるやつ」
百「そう、いい人だから白。ワーッてコートの前を広げて露出をするというね」
兼「字面だけだと“どこがいい人だよ”って感じですけど、あの人はめちゃくちゃいい人ですからね(笑)」

 ところでほかのメンバーについてはどう思っているのか。

百「僕は白酒兄さんが大好きで、ちょっと親しくなったかなと思って近寄ると“なれなれしいよ”ってピシャリと言われる(笑)。これ書かなくていいですからね。あとは…例えばすごくベテランの師匠が楽屋にいらっしゃった時に、僕たち若手はあまりしゃべれないんですよ。でも白酒兄さんは上手に“師匠の元のお名前はどういうお名前なんでしょうかね”ってベテランの師匠が喜びそうな質問をして楽屋の空気を和ませてくれる。素晴らしいです。これ、書けるやつです(笑)」
兼「すごく優しいですよね。完全に自分の世界があって、誰にでもあんな感じ」
百「僕らの世代に区切りがあるとしたら白酒兄さん、三三兄さんがトップというのが僕の感覚なんです。彦いち兄さん、菊之丞兄さんは一つ上の白鳥、喬太郎兄さんの世代という感じなんですよね」
兼「そう、ひとつ上の世代ですよね。だから白酒師匠は若手のトップという感じ」
百「でも当人はお前らいいよ、俺はこっちに入るよって思っていると思う(笑)」
兼「そうでしょう、そうでしょう。地位的にはすでにそうですもん(笑)。でも毒を吐いても顔がいいから得していますよね。ふっくらして、顔も丸くてニコニコしてるから嫌味がない」
百「それは本人も自覚していて、打ち上げで“僕はこの体型でこの顔だから毒を吐いてもいいんだよ”って言ってた(笑)」
兼「一之輔君は勉強熱心。落語が大好きで、落語マニアです。そして最近はお酒を飲まなくなったんですよね。自分だけ長生きして売れようと思っているんですね、きっと(笑)」
百「以前本人から聞いたんだけど“稽古はしない”って言うんです。“稽古嫌いなの? 勉強嫌いなの?”って聞いたら“僕は勉強は大好きなんです”って言うのね。昔から大好きなんだって。だから僕らのやってるような稽古じゃなくて、きっと一之輔くん独自の稽古法があるんだよ。勉強が好きって言い切れる人なかなかいないから、すごいなって(笑)」
兼「百栄師匠は大人。考え方が大人です」
百「大人じゃなくてジジイだから(笑)」
兼「大人なんですよ。ああいう新作は大人じゃないと書けません。子どもじゃ無理。シュチュエーションとして『露出さん』みたいなのはあるけど、ギャグそのものとかに汚いとかそういうことがない」
百「それはね、僕は寄席に出たくてこの世界に来たので、その寄席で嫌われるような芸をいちいちやる必要がないと思っているの。お年寄りが聞いても温かく感じる話が一番いいと思っているので」
兼「それが大人なんですよ」
百「兼好師匠については、格としては十分だし、僕としてはトリを取ってもらいたいけど、空気を作るのがめちゃくちゃうまいので、本音を言うと毎回前座をやってくれないかなと思っている(笑)」
兼「毎回ずっと前座で、この人出世しないわねーって言われ続けるんですね(笑)」
百「非常に言いづらかったんですけど、この人が最初に出ると楽なんです。暗い話とかやらないし」
兼「確かに暗い話は持っていないですね。でも僕も最初は楽です。逆に後だと前の人の雰囲気をどう受け止めていいのか分からない。最初に出てやりたいようにやって降りるのが一番楽。百栄師匠は前の人の空気で変わります?」
百「そうですね。ネタ選びはもちろんですけど、僕なんかこれ、完全に色物じゃんっていう時ありますからね、寄席で(笑)。だからそのつもりでやらなきゃというのはあります(笑)」

 今度のアルデンテはどうなるのか?!

百「ネタはいつものように、まだ決めていません。あとテーマについても、一回だけ考えて行ったけど、それ以降はない。思いついたら、それが使える場所であれば入れていこうかなと」
兼「大体前の人が使いますからね。それ使ってきたかって(笑)。この3人の師匠だと、私が思いつくことなんて、とっくに思いついているので。だから順番でどうなるかですね」
百「そうそう。当日こんなテーマだったなってぼんやり考える程度。次回のテーマは…あれ? テーマってあったけ?」
兼「そういえば全然覚えてない(笑)」
百「ねッ、こんなもんです(笑)」
(本紙・水野陽子)

我らの時代 落語アルデンテXII
【日時】11月25日(水)18時30分開場/19時開演【会場】池袋・東京芸術劇場 プレイハウス(中ホール)【出演】桃月庵白酒/春風亭百栄/三遊亭兼好/春風亭一之輔/ほか【料金】全席指定3600円【問い合わせ】夢空間 TEL:03-5785-0380
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