神木隆之介 × 上白石萌音 世界を魅了する珠玉アニメーション監督・新海誠 最新作『君の名は。』

SPECIAL INTERVIEW

「アニメーションという言葉ではくくれない」—。同世代のなかでも突出した存在感を放つ俳優・神木隆之介と、『舞妓はレディ』ではのびやかな歌声と演技力で注目を集めた上白石萌音が、熱愛するアニメーション監督・新海誠監督の最新作で共演。“心と体が入れ替わる”声の芝居の難しさも“新海作品への愛”で乗り切ったもよう!

撮影・辰根東醐

憧れの新海誠監督の世界で

 実写のように精緻な風景描写や、すれ違う男女の物語に込められる繊細な感情表現の数々…そんな新海作品ならではの魅力に加え、かつてないスケール感とエンターテインメント性が広がる、新海誠監督の最新作『君の名は。』。都会の男子高校生・立花瀧(たちばな たき)役の神木隆之介と、田舎で暮らす女子高生・宮水三葉(みやみず みつは)役の上白石萌音は、新海作品を初めて見たときから魅了されたと語る。

上白石萌音(以下:上白石)「私が初めて拝見した新海監督の作品は『秒速5センチメートル』なんですが、アニメーションと一括りにできない、今まで見たことのない映画に出会ったという衝撃を受けたんです。オーディションでも、とにかく監督とお会いしたい一心でした(笑)」

神木隆之介(以下:神木)「僕も『秒速−』で新海監督の作品と出会って衝撃を受けたんです。アニメーションで、こんなに細かく繊細な表現ができるのか、こんなに曖昧さがあって、しかもそれが美しいなんて、と衝撃でした。そこから何十回も見ました。『言の葉−』のときも、早く次回作が公開されないかなとファンとして楽しみにしていました。それが今回、チャンスを頂いたときは本当に信じられなかったです。僕としては完全に“見る側”の人間だと思っていたので(笑)」

 ずっと、どんな方なのか気になっていた、と神木。

神木「この現実の世界を見て、あれほど素敵な画を、物語を生み出す新海監督は一体どういう視点を持っている人なんだろう、と思っていたんです。『言の葉−』を見たときには、なんで総武線がこんなに美しく見えるんだ?と思いました(笑)。総武線をあれほど美しく描けるなんて、モノの見方が違うのかな、と。でも実際は特別すごく変わっているということも無く(笑)、本当に素敵な方でした。ただ僕が恐ろしく思ったのが、本当に指示が的確ということ。これまでの作品でも難しく感じていた部分があったのですが、監督はそこを的確に、具体的に指示してくださるんです」

上白石「監督の作品は、画が美しいのはもちろんですが、言葉の美しさにも特徴がありますよね。初めて作品を拝見したときから、知的でどこか詩的な言葉が印象的だったんですが実際、監督は普段から使う言葉が美しいんです。温かい言葉づかいというか。指示を出すときも“上白石さん、お願いできますか”とか“お休みになっていて大丈夫ですよ”という感じで本当に丁寧に引き出してくださる。だから私も監督とお話ししていると、すごく優しい気持ちになるんです」

神木「声も素敵だよね」

上白石「そうなんですよね! お話も面白いし。どんな素敵な方なんだろうと思っていたけど予想以上に素敵でした」

撮影・辰根東醐

声で一人二役を演じる難しさ

 今回2人が演じたのは、それぞれ都会と田舎で暮らす高校生の男女。

神木「僕が演じた瀧は、東京で暮らすごく普通の男子高校生。突出して能力があるわけでもなく、言葉づかいや友人との関係性も現実によくある感じ。そんな、ごく普通の感じがかえって見る人の共感を得るキャラクターになっていると思います。でも、ごく普通だからこそ演じていて難しかったです。どうしたら“演じていない日常”というものを自然に演じられるだろう、と。アフレコのときには声の演技というより実写の演技をしている感覚だったシーンもいくつかありました」

上白石「私は最初に脚本を読ませていただいたときから三葉のことが大好きになりました。三葉は、とてもまっすぐに生きている女の子。ちょっと抜けてるところもあったりして誰からも愛されるタイプ。同時に、本当にいそうな子だなとも思いました。私も三葉と似たような田舎で生まれ育ったんですけど、本当に家の隣に暮らしてそう。それくらい三葉に身近なものを感じたし、いたら絶対に仲良くなりたい(笑)。見ている人にもそう思ってもらうにはどうしたらいいか考えながら役作りをしたんですが、アフレコに入る前日に監督から“三葉は自分だと思いながら演じてください”と言われたんです。それまで、どうやってこの素敵な女の子に近づこうかと考えていたんですけど“私”でいいんだと思い、それまで以上に三葉との距離が近くなった気がしました。もちろん演じながら悩むこともありましたけど、ずっと相棒のような感覚で三葉と一緒に頑張っていこうという気持ちでいることができました」

 ところが “ごく普通”ではない出来事が起こる。なんと瀧と三葉が“夢の中”で入れ替わってしまうのだ。入れ替わった日は1日、互いの体でそれぞれの日常を過ごすことに…。

神木「やっぱり入れ替わっているシーンは難しかったです。中身は異性だという芝居をやりすぎてもだめです、やらなさすぎても伝わらない。ただ監督とは “中身が入れ替わったとしても声帯は変わらないよね”という話をしていました。瀧が三葉の中に入ったとしても声帯は三葉のものだから、三葉ができる低い声になるはず。逆に僕の場合は中身が三葉であっても瀧の声帯で出せる高い声になる。それを自然にできればいいよね、と。それがやっぱり難しかったです。演技の強弱は後から調整するとして、まずは思いっきり女の子になってみよう、と思いました(笑)」

上白石「私も“俺”なんて言ったことも無かったので、まず男言葉になじめなくて。自分でも違和感を感じながら練習をしていたんですけど、いざ収録に入ってみると、入れ替わっているときの瀧と三葉の表情は普段と違うんですよね。三葉は少しりりしく、瀧は少し柔らかくなる。そんな表情を見ていると、なんとなく自分で分かってくるような感じがあって。やっていくうちに、こういう声の出し方をすれば男の子みたいに聞こえるとか、語尾は女の子より荒いんだ、とか分析的なことも少しずつつかんでいきました」

 お互いのイメージも参考にした。

神木「上白石さんに、僕が出ている作品で男の子っぽい作品あります?と聞かれました(笑)」
上白石「私、本当に失礼なことを…」

神木「僕も、男らしい役か…と2日くらい考えました(笑)。それで宮藤官九郎さんが脚本を書かれたドラマ『11人もいる! 』をお薦めしたんです」

上白石「お忙しいのにありがとうございました。瀧になったときの演技の参考にするために、神木さんのこれまでの作品を、目を閉じて神木さんの声に集中して見てみたんです。やっぱり声だけでも伝わるものがあって、すごいなと思いました」

神木「僕の場合は、上白石さんが三葉を演じるならこういう感じかな、とイメージしながら演じていました。“この子、日記つけとる”というセリフの“つけとる”の高低差の音とか。これが僕の声ではなくて上白石さんの声だったら絶対いい!と思える音を探しながら。なので僕の演じた三葉は、僕の理想がかなり入っています(笑)。先に僕が自分の理想を演じてしまって…」

上白石「どんどんハードルが上がりました(笑)。神木さんの三葉が本当にかわいいので、監督が求めるかわいらしさもどんどん上がっていったんです。監督から“もう少しかわいくお願いできますか”と指示頂いたこともありました。ああ、私は女の子としても神木さんに及ばないんだな、と思いましたね(笑)」

 出会うこともないままに強い絆で結ばれていく瀧と三葉。想像以上に遠い2人の“距離”が、見る者の心に切なくも美しく迫る。何かを、誰かを探す切ない思いは、これまでも新海作品で綴られてきた。

神木「『秒速−』を見たときからそうなのですが、僕はその感覚にすごく憧れを持っているんです。行き場が無いのに前に進みたい、何を探しているのかも分からないけど探しに行きたい…そんな気持ちを持っている登場人物の姿が、とても美しく思えて。毎日、楽しく過ごしているけれど1つ、ぽつりと足りないものを感じていて、しかもそれはとても大切なものだと分かっている。でもそれが何なのか分からない…そういう曖昧というか不確かな感覚は、とても美しいものなのではないか、と。僕は実生活では大して何も考えていないですが(笑)、ふいに、ぼうっとしているとき、いま自分は本当は何が一番やりたんだろうと思ったりすることはあります」

上白石「私も同じで、憧れの感情です。“何か足りない”という思いは、大人になって分かる気持ちなんじゃないかと思うんです。三葉と瀧は若くして、とても大きなものを探すことになったけど、私自身は単純な人間だし、むしろ足りないものだらけ(笑)。見つけなきゃいけないものが多すぎて、漠然と何かが足りないという切なさは大人びた感情に思えます。私ももう少し大人になったら何かを、誰かを探すのかな(笑)」

神木隆之介:ヘアメイク・INOMATA(&'s management.) スタイリスト・吉本知嗣/上白石萌音:ヘアメイク・岩田友衣奈 スタイリスト・梅山弘子(KiKi inc.) 撮影・辰根東醐

また一歩、成長した2人

神木「新海監督への敬愛は確実に成長しました(笑)。僕自身がどれだけ成長できたかは分かりませんが、ただ自分の芝居に監督から一つ一つOKを頂きながら作品を完成できたことは、本当に大きな経験になったと思います。実は僕には半年、1年ごとに自分がどれだけ成長したか振り返る時期があるのですが、いつも自分は何も成長していないと思っています」

上白石「そ、そんな…! 私が神木さんだったら自分が誇らしくて仕方ないですよ! 神木さんの作品を見るたびに天才ってこういうことかと思います。あの、すごく素朴な質問なんですけど、演技するとき何を考えていますか?  完全にリラックスして感情に任せているのか、どこか冷静でいるのか…」

神木「冷静というか、ある程度は緊張感も持っています。アニメでも実写でも毎回、自分の中にテーマがあって、それを心の片隅に置いているので。最近のテーマは、人と会話する芝居で、いかに自然に目を見ずにいるか、ということです」

上白石「目を見ない?」
神木「そう。相手の目を見ないで芝居をするんです。普段、人と話をしているとき、じーっと相手の目だけを見て話したりしないですよね。どこかを見たり、かすかに視線をそらしていたり。もちろん、どんな芝居が求められているかによりますが、無意識にしてしまうことを、いかにリアルに芝居するか。考えているのは、それくらいかな」

上白石「す、すごいなあ…。聞けて良かったです。私も何かテーマを見つけて頑張ります」
神木「僕も頑張っているなんてまだまだ言えないレベルなので(笑)」

 新海ワールドで特別な時間を生きた2人。ちなみに、2人が新海作品に登場してほしいと思う風景は?

神木「現実に美しい場所はたくさんあるし、そういう場所をまた美しく描くのも新海監督が得意としているところだと思うのですが、あえて特徴の無い日常を、それも家の中とかを美しく描かれるのを見てみたいです。しかも、ゲームしている自分の姿なんかもあって(笑)。ソファーでだらっとしているのに、すごくキレイな光がかかってたりして。僕の日常も新海監督作品の中なら、すごく美しく見えると思う(笑)」

上白石「自信を持ってゲームができますね(笑)。私は、地元の街を描いてもらえたら…。三葉と同じ、何もない田舎なんですけど、その何もない感じが好きだったんです。住んでいたころに特別な美しさを感じていたわけではないんですが、新海監督のまなざしを通したら、どれだけ美しかったのか気づかされるんじゃないかな、と思って。監督の作品を見ていると、無造作に生えている草や無機質なビルにも命を感じるんです。こんなに世界は美しいんだ、と思うんですよね」

 何気ない毎日にも、実は飛び切りの美しさや切なさ、優しさを見つけられる…アニメーションを超えた映像美とともに2人の声が、そう教えてくれる。(THL・秋吉布由子)

© 2016「君の名は。」製作委員会
『君の名は。』

監督:新海誠 声の出演:神木隆之介、上白石萌音、長澤まさみ、市原悦子他/1時間47分/東宝配給/8月26日(金)より全国公開  http://kiminona.com/http://kiminona.com/