【第29回東京国際映画祭】監督・行定勲が語る「映画祭から生まれるもの」
国際交流基金アジアセンター×東京国際映画祭 アジア・オムニバス映画製作シリーズ企画〈アジア三面鏡2016:リフレクションズ〉が始動。その第1弾で製作された3作品のうちの1本『鳩 Pigeon』を手掛けたのがアジアでも人気の高い行定勲監督。まさにTIFFが生んだアジアの一本というべき本作の誕生秘話を語ってもらった。
「僕が東京に出てきたのはTIFFがまだ渋谷のBunkamuraをメイン会場にしていたころでした。僕のような海外映画フリークにとって、日本での公開も決まっていない海外作品を見ることができる貴重な機会でした。とくにTIFFは良質なアジア映画を数多く紹介していましたからね。エドワード・ヤン監督の『クーリンチェ少年殺人事件』なんて、いまだに僕のベスト10に入っています(※同作は今年ワールド・フォーカス部門でデジタルリマスター版を上映される)。実は僕はこの作品を少し手伝ったこともあって、個人的にも思い入れのある作品なんですよ。1991年のコンペに出品されて、審査員特別賞を受賞したんです。グランプリは取れなかった。分かってないなあ、TIFF!と思いましたよ(笑)。まあこれは映画ファンとしてのたわ言ですけどね。実際、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの長編初監督作だった『アモーレス・ペロス』をグランプリに選んだり、TIFFは数々の傑作を見出してきた。そういうことも、もっと広まってほしいんですよね。それには、もっとたくさんの国の人たちが集う映画祭でいてほしい。TIFFでの出会いから生まれる作品がもっと増えるといいなと思うんです。まあ、カンヌなんかと違って東京は都会なので、なかなか訪れた人が留まってくれないのは難しい点ではあると思いますが、参加した映画人にも、映画祭を楽しんでもらいたいですね。
去年、久々にTIFFのレッドカーペットを歩いたときに、日本の映画人たちがとても楽しんでいる姿が印象的でした。以前はみんな、格式張った映画祭に照れながら参加している感じがしていたけど。映画祭は自分たちの映画をアピールする場でもあるんだから。華やかなのはいいけど、上から目線じゃなくて、報道陣にも自由に取材してもらって、ファンともティーチインなどでもっと交流して、アピールすべきだと思う。俳優、スタッフ全員が一様にね。それと、国内の映画人がもっと協力し合えるような体制も必要じゃないかと思います。僕は韓国の釜山国際映画祭にもよく参加しているけれど、参考にできる点があるなと思います。
それと、やっぱり観客の皆さんに、映画祭期間はどっぷり映画に浸かってもらいたい。せっかくいろんな映画人も来るんだし。眺めるんじゃなくて、自分たちの国の映画祭として、参加する姿勢で楽しんでほしいな。最終的には映画ファンが映画祭を作るんです。観客がどんな映画に注目するかは非常に重要。僕としてはぜひ、日本での公開が決定してない作品に注目してもらいたいです。あと1週間くらいしたら封切する映画よりも(笑)。
日本で今後上映されることがないかもしれない作品の中に、一生の宝となる一本があるかもしれないんですよ。一生、訪れることのない国の映画を見る機会なんて映画祭でもなければそうそう無いでしょう。未知との出会いが必ずあるはずです。
僕自身、映画人としても大きな刺激や影響を受けてきました。今回、僕が〈アジア三面鏡2016〉の企画で撮った『鳩 Pigeon』は、まさにそんな出会いから生まれた一本です。そもそもは2005年にアジアの風部門で上映されたヤスミン・アフマド監督の作品を見てマレーシアの映画や国に興味を持ったのがきっかけでした。翌年に映画祭で彼女の作品を特集上映したときに一度だけお会いすることもできました。ずっとヤスミンの新作にTIFFで会えるのを毎年楽しみにしていたんですが彼女は2009年に亡くなってしまって。っそして今回、ヤスミンの映画でヒロインを務めていたシャリファ・アマニを今回『鳩 Pigeon』で起用させてもらっています。TIFFがヤスミンの作品を上映しなかったら、僕が彼女の作品に感銘を受けマレーシアに興味を持つことも、その女優と出会うことも、この作品を撮ることも無かったでしょう。いわばこの作品は、ヤスミンが残したDNAを受け継いだようなもの。僕のなかにヤスミンという偉大な監督のDNAが流れ込んできたような感覚なんです。映画はそうやって、伝えられ受け継がれていく。そのための場としても、映画祭は重要な役割を担っているんです。だから今回〈アジア三面鏡2016〉のうちの一本を任せてもらえたことはうれしかったですね。なぜならこの映画は僕以外、誰も作ることができなかったから。
そういう特別な出会いを作る側、見る側に関係なく、もたらしてくれるのが映画祭なんだと思います。僕も普段はあまり他の映画を見る時間が無いんだけれど、映画祭期間中は出来る限りいろいろな作品を見ます。毎回、必ず何らかの刺激があります。去年上映された、iPhoneで撮った『タンジェリン』とかね(笑)。映画祭に行くと、映画とはこうあるべきなんてルールは無いんだろうなと思わせられる。映画を作る場に立つと、なんとか観客に分かってもらおうと試行錯誤しているけど、本来、映画は自由なんだと勇気づけられますね。逆に、自分が海外の映画祭で若い映画監督から声をかけてもらうのも、とてもうれしいです。『GO!』のような作品を撮りたくて映画監督になったという若い監督さんもいたし『世界の中心で、愛をさけぶ』のような作品を作りたいから一緒にやってくれないか、なんて話もありました(笑)。そういう声を聞くと、次はどんな新作を作ろうかという意欲が一層わいてきますね。だから僕はいくらでも映画を作れるんです。明日から映画作れと言われたら今日の夜、考えます! そこそこの映画は作れるんじゃないかと(笑)。今年の映画祭でも、どんな出会いがあるか楽しみにしています」
アジア・オムニバス映画製作シリーズ アジア三面鏡2016:リフレクションズ
『鳩 Pigeon』監督:行定勲 出演:津川雅彦、シャリファ・アマニ、永瀬正敏 /『SHINIUMA Dead Horse』監督:ブリランテ・メンドーサ/『Beyond The Bridge』監督:ソト・クォーリーカー