江戸瓦版的落語案内 火焔太鼓(かえんだいこ)
落語の中には、粗忽、ぼんやり、知ったかぶりなどどうしようもないけど、魅力的な人物が多数登場。そんなバカバカしくも、粋でいなせな落語の世界へご案内。「ネタあらすじ編」では、有名な古典落語のあらすじを紹介。文中、現代では使わない言葉や単語がある場合は、用語の解説も。
道具屋の甚兵衛は、好人物だが、呑気で気が弱い。そして商売も下手。なのでおかみさんは毎日カリカリしている。「で、今日は一体何を仕入れてきたんだ? 太鼓? しかも随分と汚い太鼓だね。買っちまったものは仕方がないから、せめて定吉にきれいにさせよう。定吉、この汚い太鼓にハタキをかけておくれ」「はーい!」。
定吉がハタキをかけていると、ホコリが出るわ出るわ。ホコリと一緒に音も出る。ドンドコやっていると、それを聞きつけた大名行列中の殿様の家来が店にやって来て「太鼓を鳴らしていたのはその方か。実は通りかかった殿様が、太鼓の音をえらくお気に召してな。ぜひ現物を見たいから、城へ持って来るように申されている」。おかみさんは「『気に入ってると言ってもこのようなむさい太鼓を持ってきおって!』と怒って捕まりはしないかね。もし買おうとおっしゃったら。元値の1分だけもらって、気が変わらないうちにさっさと帰っておいで」と甚兵衛を送りだした。
さて、屋敷に着いた甚兵衛、殿様に『このようなむさい太鼓を…』と言われたら、太鼓を置いて一目散に逃げようと構えていた。太鼓を預けた家来が戻って来て「殿は大変お気に召したようだ。言い値で買おう。幾らか言ってみろ」という。驚いた甚兵衛は、いくらの値をつけていいか分からず、思わず両手を一杯に広げ「10万両…」。「高い。では、こちらから値を言おう。ふむ…300両ではいかがかな」「さ、さ、さ、三百両!」聞けばあの太鼓、火焔太鼓といって世に2つとない国宝級の名器だという。「では、50両ずつ渡すので、一緒に数えてくれ。50両、100両…」「すみません」「なんだ」「水を一杯いただけませんか」「250両…ほら、300両だ」お礼を言って屋敷を出た甚兵衛。
これまでさんざんバカにしてきたおかみさんに、何て言おう…。「ただいま帰ったぞ」「おや、捕まらなかったのか? もしかして、追いかけられてんだろう。さっさと天井裏にでも隠れちまいな」「何言ってやがんだ! あの太鼓はな、300両で売れたんだ!」「何だって!?」「ほら見ろ、50両、100両」「すまない、水を1杯飲ませておくれ」「250両…で、300両だ」「すごいよ、お前さん。商売が上手い。やっぱり音の出るものに限るね」「おう、今度は景気よく火の見櫓の半鐘を仕入れてこよう」「半鐘? 半鐘はいけないよ。おジャンになる」。