日本人、絶滅『プログラム』【著者】土田英生
著者は劇作家で、演出家、俳優の土田英生。劇団「MONO」代表で、99年に『その鉄塔に男たちはいるという』という作品でOMS戯曲賞大賞を受賞。2001年には『崩れた石垣、のぼる鮭たち』で芸術祭賞優秀賞を受賞した。ほかにも、多くのテレビドラマ・映画脚本の執筆を手掛けるベテランだが、同作が小説家としてのデビュー作となる。
舞台は東京湾上に作られた人工島・日本村。そこは島全体が日本をイメージしたテーマパークになっており、純粋な日本人以外は、住んでいる人も訪れる人も全員バッジ装着の義務がある。閉じたその島には、安全・安心な夢の次世代エネルギーとして世界中が注目するMG発電の巨大な基地と本社があった。ある日、その島の上の空に赤い玉が浮かび上がり、それが徐々に空全体に広がっていった。空が赤く染まっていくに従い、二度と起きることのない永遠の眠りにつく強い眠気が島にいる人間を襲い…。
作品全体のベースはSFで、近い未来に起こりそうな設定が不安をあおる。しかし物語は「燕のいる駅?午前4時45分 日本村四番駅」、「妄想と現実?午前9時55分 大和公園」など、短い話が時系列に連作となっており、その一つ一つは笑えたり、微笑ましかったり、バカバカしかったりする。そこには普通の人たちの日常があり、迫りくる“その日”を意識させるものはない。けれど、その人々が小さな出来事に右往左往し、人として普通の生活をしている事が逆に、赤い空が広がる描写と相反し、不気味さと不安を増していく。些細なことに喜びや悲しみ怒りを感じ1日1日を生きる。そんな普通の人の日常を脅かす“その日”は、現実世界でも案外近くに迫っているのかもしれない。人類の終末を予言しているような衝撃作だ。