【長島昭久のリアリズム】変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その壱)
トランプ政権が誕生して100日余りが過ぎ、ようやくトランプ外交の大枠が見えてきました。そんな中で、筆者は台湾の台北で行われた国際シンポジウムで講演する機会を得ました。以下、およそ10回にわたって、その講演録を全文掲載したいと思います。トランプ政権誕生後の日米同盟やアジア太平洋地域における地政学について、最新の情報を交えながら語り尽くしましたので、ご関心のある方にはぜひお読みいただきたいと思います。
まず、現在のアジア太平洋の戦略環境について、米中を軸に概観したいと思います。
中国の軍事費は、過去30年で約50倍に膨れ上がりました。しかも、中国は、2000年代の半ばまでにユーラシア大陸における国境紛争をほぼ全て解決し、自国が持つ資源の大半を海洋進出へ投入し得る環境を整えることに成功しました。実際、2008年以降の中国海軍、海警を中心とする海上法執行機関の艦船などは、東シナ海や南シナ海、さらには第一列島線を超え西太平洋海域にまで、しばしば常軌を逸する強硬姿勢で積極的進出を図ってきました。
この現実を70年以上前に予言したのが米国を代表する地政戦略家、ニコラス・ジョン・スパイクマンです。彼は、著書『世界における米国の戦略』で、次のように警告を発しています。
「近代化し、勢いをつけ、軍備を増強した中国は、“アジアの地中海(=台湾、シンガポール、豪州北部ヨーク岬を結ぶ三角形の海域=南シナ海)”で、日本だけでなく、西側諸国の地位をも脅かすことになるだろう・・・この海域が米・英・日のシー・パワーではなく、中国のエア・パワーによってコントロールされることもあり得る。」(ここで強調されているのが、シー・パワーではなく、エア・パワーであることは注目に値します。それは、あたかも今日、南シナ海に展開する人工島やそこに建設された3000m級滑走路などを予言しているかのようで、改めてスパイクマンの慧眼に驚きを禁じ得ません。)
そのスパイクマンの予言をそのごとく実現する海洋戦略を打ち立てたのが、劉華清提督(鄧小平時代の中国共産党政治局常務委員であり海軍司令員)です。彼の海洋強国戦略(正式名称は「近海防御戦略」)によれば、「(中国)海軍の作戦海域は、今後の比較的長い期間は、主に第一列島線と当該列島に沿った沿海海域および列島線以内の黄海、東シナ海および南シナ海である。・・・我が国の経済力と科学技術レベルが絶え間なく向上することに伴い、海軍力はさらに強大なものとなり、我々の作戦海域は北太平洋や第二列島線にまで徐々に拡大して行くだろう」とされています。
この中国の戦略が意味するところと具体的な将来展望、ならびに米国の対抗策とその現状については、次回明らかにしたいと思います。
(衆議院議員 長島昭久)