【インタビュー】土屋太鳳“奇跡”と出会う!
“8年越しの結婚式”を挙げた岡山県のあるカップルの挙式映像がYouTubeで投稿されるや、8年越しとなった理由に秘められた驚きのエピソードは瞬く間に拡散され、多くのメディアで紹介。日本中の感動を呼んだ。そんな奇跡の実話を『64―ロクヨン―前編/後編』の瀬々敬久監督がメガホンをとり、佐藤健、土屋太鳳という豪華キャストで映画化。恋する女子高生からアクション満載の役どころまで幅広い役をこなす土屋太鳳が、心からの愛情を持って本作を語る!
土屋太鳳“奇跡”と出会う!
恋人の尚志との結婚式を前に300万人に一人という病を突然発症し、昏睡状態に陥ってしまう麻衣。やがて意識は回復するものの、長いリハビリ生活、そして2人にとってのさらなる試練が待っていた…。
岡山県に暮らす中原尚志さん、麻衣さん夫婦の実話を記したノンフィクション『8年越しの花嫁 キミの目が覚めたなら』を映画化した本作。土屋太鳳が挑むのは、想像を絶する体験を経て奇跡の愛を実現させた中原麻衣さんをモデルにした主人公・麻衣。実在の女性を演じることの難しさとどう向き合ったのか。
「実在の人物をモデルにしているといっても歴史上の人物を描いた作品の場合とはまた違って、本作のモデルとなった麻衣さんは私と同じこの時代を生きている方です。だから私が演じることによって麻衣さんはもちろん、ご家族や周りの方々へも影響があることを考えないといけないと思いました。今回は、同時代に生きる方をモデルに演じることの責任の大きさを強く感じましたね。でも、自分が麻衣さんと尚志さんへの思いを一番大切にして演じれば、実際に麻衣さんたちを知らない人にも麻衣さんの素敵なところや麻衣さんが伝えたい思いを知ってもらえるかもしれない。自分を通して麻衣さんのことを伝えたい、その一心で役に挑みました」
撮影前、岡山県で暮らす中原さん一家に会う機会を得た。
「その時は、闘病生活や結婚式の様子など、尚志さんが撮り続けた麻衣さんのビデオを一緒に拝見させていただきました。あと麻衣さんと一緒にハンバーグを作ったり、お子さんと遊ばせてもらったりしました。いろいろ話を聞くよりも、一緒に過ごしたこの時間が麻衣さんを知るうえで大きかったと思います。ただ一つ、麻衣さんに“この作品で何を伝えたいですか”と尋ねたところ“愛情”を伝えたい、とおっしゃっていたのが印象的でした。“私はこれほどの愛情をもって支えてくれた人がいたから頑張れた、だから愛情を大事にしてほしい”と。麻衣さんにお会いして感じたことは、生きていることは素晴らしい、ということ。もちろんこれまでもそう思っていましたが、生きていることそのものが奇跡なんだなと強く感じたんです」
中原さん一家への思いを熱く語る。
「麻衣さんと尚志さんって、すごく穏やかで笑顔が素敵なんです。お会いして、麻衣さんたちのために、自分を通してこの物語を多くの人に伝えたいと改めて思い、その一心で演じました。麻衣さんご一家に会えたことが演じるうえで一番の支えになりました」
ともに挑戦する仲間がいる幸せ
しかし麻衣の過酷な運命を演じるのは並大抵のことではなかったはず。
「確かにお芝居とはいえ、闘病中の場面の撮影は私自身とてもつらいものがありました。麻衣さんは意識が回復した後にリハビリ生活に入るんですが、当時、麻衣さん自身はリハビリをするぞ、がんばるぞという意識がなく、そのころの記憶も無いんだそうです。そういう状態の麻衣さんを演じるのは、どこに心を向ければいいのかということも難しかったですね。でも麻衣さんが命をつかむために実際に歩んだ過程を私もたどろうと必死でした。麻衣さんの想像を絶するような体験をたどり、生きていることが奇跡なんだ、と心から思い、同時に自分はどう生きていきたいのか、そんなことも考えるようになりました」
昏睡から回復し始めるまでの時期は特殊メイクで演じなければならなかった。
「闘病シーンは麻衣さんからその時期のDVDをお借りして拝見しましたが、本当に壮絶なものだったんだと改めて感じました。私も4時間かけて特殊メイクをしてもらったんですが、メイクに加え鼻や口にも管を装着するので息は苦しく、ずっと足を上げているので貧血気味になったりもしました。でも本当の病院で撮影させていただいていたので、本物のお医者様が何かあれば対応できるよう見守ってくださっていたんです。協力してくださった方やスタッフの皆さん、本当に多くの方に支えていただいたので、大変だった場面の撮影を振り返っても私自身がつらかった思いより皆さんに助けていただいたことが思い浮かぶんです」
何より根底にあったのは麻衣さんへの思いだった。
「撮影に入る前、原作や台本を読み監督や麻衣さんとお話ししたときから、この作品は感動するだけの映画ではないと思っていました。麻衣さんたちの壮絶な戦いは、私たちには到底実感できないことです。それだけに、役作りはどうやったとか、そんなこと話すこともおこがましいように思えるんです。そのうえで作品とどう向き合うかを考えたとき、やはり麻衣さんたちのことを一番大事にしたいと思いました。麻衣さんたちの物語を多くの人に伝えたい。その思いを支えに闘病生活のシーンも乗り越えることができたんです」
実際の麻衣さんと会ったことで、芝居へのアプローチを変えた部分もあるという。
「麻衣さんは、とても器の大きい方なんです。すごくかわいらしくて女子力があるのに、豪快さもあって。よく笑うしツッコむし(笑)。何より、相手のことを思いやることが自然にできる方なんです。お会いした後もメールのやりとりをさせていただいたんですが、メッセージの文面からも私を気遣ってくださっているのがすごく伝わってくるんです。そんな麻衣さんの人柄も伝えられたらと思い、麻衣さんとお会いした後に、お芝居を少し変えてみたいと相談したら監督も尚志さん役の佐藤健さんも同じように思ってくださっていて。一緒に同じ思いで芝居を作ってくださいました」
尚志を演じた佐藤健の存在も大きな支えとなったようだ。
「17歳の時に共演させていただいてからずっと“健先輩”と呼ばせていただいているんですが(笑)、今回は台本を読んだ時点で思うことがあると健先輩に“この場面はこう演じてみたらどうかと思うんですが”とよく相談させていただきました。私のような後輩にもまったく同じ目線で芝居のことを一緒に考えてくださって、練習にも付き合ってくださって、すごく支えていただいたと思っています。健先輩の持つ作品への愛情、尚志さんや麻衣さんへの愛情を強く感じました」
温かな人間ドラマに定評のある瀬々敬久監督。
「現場では、監督は照れ屋さんなんだなと思うことが多かったんです(笑)。そんな監督ご自身のお人柄が、映像になったときに、より深く優しさや温かさを感じる作品にしているのかなと思いました。瀬々監督の作品らしい優しさに満ちた、命と向き合う作品になったと思います」
現地ロケではラン出勤!?
岡山や小豆島でのロケ風景も作品に温かさをまとわせている。
「岡山ロケでは、ホテルではなくアパートに宿泊させてもらっていて、それが駅まで4キロほど離れているんですが、毎日のように往復8キロをランニングで通ったりしていました。路面電車とすれ違うのが楽しみでしたね。アーケードや商店街とか、撮影した場所もランニングのルートだったんですけど、住んでいるみたいに街の空気感を感じることができて、楽しかったです。地方ロケってけっこう好きなんです。地方のほうが好きかも(笑)。東京にいると一つの仕事が終わると次のお仕事に行かないといけないことが多いですけど、地方ロケの間は一つの作品に集中できるのがいいですね」
土屋が今も大切にしているものを見せてくれた。かわいらしくデコレートされたフォトフレームに入った、土屋と中原さん一家との写真。
「このフレームは麻衣さんが作ってくださったんです。こういうかわいらしい方なんです(笑)。最初にお会いしたときに一緒に写真を撮らせてもらったんですが、次にお会いした時に“初めてこういうの作ったから上手じゃないけど、どうしても渡したくて”と、これをプレゼントしてくださったんです。これをずっとお守りにしていました。最後の撮影の日も麻衣さんたちが現場に来てくれて、終わった後に一緒に撮った写真も大切にしています。撮影を終えた今も写真を見るたびに、責任の大きな役だったけど、麻衣さんたちのような人と出会えたことを心から幸せに思います」
尚志が撮り続けた映像が、2人にもたらす最高の奇跡とは…。
「麻衣さんと尚志さんに起きたことはまさに奇跡ですが、ご本人たちは本当にごく普通の温かいご夫婦なんです。ということは、誰の心の中にも2人のような奇跡を起こすほどの愛情があるんじゃないかな、と思うんです。実際の映像が麻衣さん、そして多くの人に感動を与えたように、この映画を通して2人の物語がより多くの人に伝わったらいいなと思っています。私自身は、自分の作品は客観的に見ることがなかなかできないので、ドキドキしっぱなしなんですが(笑)」
いつか結婚するときは和装とドレス、両方着たい、と照れながら語る土屋。奇跡を起こした花嫁姿で、日本中に感動のブーケを贈ってくれる。
(本紙・秋吉布由子)
監督:瀬々敬久 出演:佐藤健、土屋太鳳、薬師丸ひろ子、杉本哲太他/1時間59分/松竹配給/12月16日より全国公開 http://8nengoshi.jp/http://8nengoshi.jp/